知っておきたい病気
2021年12月 「じんましん」
今村皮ふ科形成外科
今村 太一
「蕁麻疹（じんましん）でしょうか？」患者さんからよく聞かれる質問の1つです。つまりは医療従事者以外にもよく知れ渡っている病気の1つと言えるでしょう。しかし名前は有名なのですが、一体蕁麻疹がどういうものなのか、ということはあまりまだ知られていないように思います。
そもそも蕁麻疹と湿疹は全く別ものです。これを言うとたまに驚かれる患者さんもいらっしゃいます。簡単に何が違うのでしょう？
我々皮膚科医が蕁麻疹かどうかを区別するためによく聞くことが、「その赤みやブツブツは数時間で形を変えますか？消え去りますか？」ということです。蕁麻疹とは数時間以内に急に出現して跡形もなく消えるのが特徴です。逆に湿疹は数日から数週間は形を変えずずっと同じ場所にいます。なので、あなたの体に出た痒みのある赤みが1日以上続いている場合、蕁麻疹の可能性は低いといえます。
「なるほど、数時間で消えるのが蕁麻疹なんですね。それで私は何のアレルギーなんですか？」これもよく聞かれます。しかし、アレルギーによる蕁麻疹はわずか5％に過ぎず、まずお目にかかることがありません。では最も多くの原因はなんでしょうか。なんと原因不明が7割以上を占めています。つまりほとんどの蕁麻疹は原因がなく、たまたま発生したものです。寝不足や体調不良などの疲れが影響しているかもしれないとも言われています。もしもアレルギーだとしたら、必ず原因の何かを食べた、原因に触れたなどの出来事の後に数時間で蕁麻疹が起こります。つまり、毎回蕁麻疹が起こるたびに同じ食事や行動をしていることになります。そのようなものが思いつかない、特に食事も行動もバラバラな時はアレルギーによる可能性は低いです。蕁麻疹が出て何だかわからないけれど不安だからアレルギーの検査をしてくれ、と言われることもあります。しかしアレルギーによるならば何らかの特定の行動や食事があることが多いです。そのような原因が思いつかないときにアレルギーの検査をしてもほぼ何もわからないだろうとされており、最近ではむやみやたらと検査はしない方がよいと言われています。
「アレルギーの可能性も低いのですね、安心しました。じゃあすぐに直したいので点滴をしてください」たまに点滴で治療してくれといわれることもありますが、蕁麻疹の特効薬は飲み薬です。点滴の薬もないわけではないのですが数時間おきに注射をしないと意味がないと思われます。なんの飲み薬かというと、抗ヒスタミン薬といういわゆる「かゆみ止め」「花粉症」の薬になります。通常、原因が無くいきなり出てきた蕁麻疹は1－2週間「かゆみ止め」を飲むと出なくなることがほとんどです。この抗ヒスタミン薬はたくさんの種類があるのですが、昔ながらの古い薬は副作用が多く、副作用が少ない最新型の飲み薬を使うように言われます。効果の速さや飲む回数、副作用などが薬によって違うので自分に合ったものを先生と相談して選ぶとよいと思います。
「我慢できるので放っておいたらだめですか?」自然に引いてくることも多いと思いますが、もし長引くと慢性蕁麻疹といってかなり治りが悪くなります。6週間以上蕁麻疹が続くと慢性化といって、一般に正しい治療をしても蕁麻疹が出なくなるまで2－5年程かかるようになると言われます。そのため数日見て引かないようならやはり病院に行かれた方がよいのではないかと思います。しかし中には蕁麻疹が出てすぐに病院に行って正しい治療をしているのに中々蕁麻疹が引かないという治りが悪い方がいます。そういう場合はかゆみ止めの量を増やしたり、種類を変えたりします。それでもダメな場合はある種の胃薬などを追加することもあります。どうしても治りが悪いというときはステロイドの飲み薬を使わなくもないですが、これはあまり薦められておらず、使うとしても1カ月以内にとどめるべしとされます。色々なことをしてもどうしてもダメ、という人には多少値は張りますが4週間に１回皮膚の下に打つ注射薬が最近発売されています。治りが悪いときは是非病院で相談してください。何をしても完全に消しきれないということもありますが、蕁麻疹の勢いがある程度抑え込めれば少しずつ出なくなると言われており安心してください。
まとめますと蕁麻疹は数時間で出たり消えたりする痒い赤み、みみずばれで、ほとんどの場合は理由がなく急に出てくることが多いものです。ちなみに一生のうちに蕁麻疹を経験する確率は15%程と言われます。多くは数週間で治りますが、6週間を超えると治るまで数年かかるようになるため早めに病院で相談された方がよいと思います。もしも6週間を超えてしまったとしても様々な治療を行うことで日常の苦痛を無くすことができ、いつかは薬をやめることができる事が多いため諦めずに安心して我々医師に相談してくれますと幸いです。