一般社団法人宇部市医師会

知っておきたい病気

2022年1月 大腸がんについて

宇部興産中央病院
平木 桜夫

 人の消化管は口から食道、胃、十二指腸、小腸とつながり大腸に移行し肛門まで一続きで存在しています。大腸は消化管の最後にあたる1.5から2m程度の長さの管状の臓器になり、主に消化管内を通過するものの水分を体に吸収する働きをしています。この大腸にできる癌が大腸がんです。
かつては日本人の国民病とまでいわれた胃がんは減少傾向となって久しいですが、大腸がんは生活習慣の西欧化に伴い今なお増加傾向で、当院で治療にあたる大腸がん症例の数も年々増加傾向にあります。大腸がんの発生要因としては①食事要因(脂肪や肉類の過剰摂取) ②生活習慣(喫煙や飲酒など) ③遺伝的な要因(家族性大腸腺腫症とリンチ症候群) などが指摘されています。今日、約10 人に1 人が大腸がんになると言われています。では大腸がんを予防するにはどうすればよいでしょうか?一次予防が重要で脂肪や肉類ばかりをとらない。野菜や果物の高繊維食を多く摂取すること、喫煙やアルコール多飲などの生活習慣の改善が重要です。適度な運動を心がけることも忘れずに。また治癒を目指す上で早期発見が非常に有効であると言われています。定期的に大腸がん検診など検査をうけ二次予防効果を高めていくことも有効です。初期の大腸がんには殆ど症状がありませんが、進行するにつれて血便、腹痛、排便異常、貧血などの症状がみられるようになります。大腸がんを初期に見つけるためには検便などの検診を定期的に受けることが最も有効ですが、診断のためには大腸カメラ検査が必須で、もし検診結果で精密検査が必要と判定されたら迷わずお近くの消化器科を受診してください。
 大腸がんが見つかりますと、大腸カメラ、CT検査などを行い、病期(ステージ)を診断します。病期は0から4までの5段階に分けられます。大まかにいうと0は癌が大腸粘膜内にとどまるもの、1は癌が大腸壁の筋層内にとどまるもの、2は癌が大腸筋層を超えて広がるもの、3は癌がリンパ節に転移しているもの、4は癌が他臓器に転移しているもの、となり、病期に応じて治療を選択して行きます。病期3までに病状がある場合には原則病変部を切除することが治療の一歩目となります。病期0では多くの場合、大腸カメラ下に治療が行われます。いわゆるポリープ切除にあたります。お腹や腸を切る必要は殆どありません。病期1から3では病気のできた大腸を周囲のリンパ節と共に切除する必要があります。病期3になりますと切除だけでは不十分で手術の後に抗がん剤治療を追加する必要があります。病期4では抗がん剤治療が第一選択となりますが、症状によっては手術も必要な場合もあります。
 20数年前頃から大腸がんの治療は大きく進歩しました。その一つは腹腔鏡手術の進歩です。これは腹腔鏡というカメラを使用し手術を進めるもので、昔の手術に比べると1/5くらいの創で手術が可能となります。創が小さいことで術後の疼痛が少なく、早期にベッドから離れることができ、結果として早期に退院できる場合が増えました。当院でも現在は大腸がんの方の80%以上で腹腔鏡下手術を行っています。大きな腹部内臓手術の既往がある場合、癌の進行度がひどい場合などにはやむを得ず普通の開腹手術となる場合もあります。もう一つは抗がん剤の進歩です。昔は切除不可能な内臓転移のある大腸がんの平均的な余命は半年からせいぜい1年程度であったのですが、現在では大腸がんに有効な種々の抗がん剤を、継続してうまく使用することで5年以上にもわたって元気で過ごせる場合が稀ではなくなりました。残念ながら抗がん剤で完治を期待できるまでには至っておらず、今後のさらなる進歩が期待されます。抗がん剤の副作用を軽減する治療が進歩したことも大きな変化のひとつです。
 以上ごく簡単に大腸がんについて述べてきましたが、当院では検診から始まり、大腸がんの内視鏡治療、腹腔鏡下手術、抗がん剤治療、緩和治療まで一貫して行っており、大腸がんが心配、大腸がんが見つかった、などがありましたらまずは当院受診をご検討ください。