知っておきたい病気
2025年1月 「肝細胞癌の治療」 ~内科的治療から外科的治療、緩和治療まで~
恩田ホームクリニック
橋本憲輝
肝癌は肺癌、胃癌、大腸癌に続き4 番目に多い悪性腫瘍で、死亡者数は年間約35,000 人です。その中で最多である肝細胞癌は、約90%が肝炎ウイルス感染、約10%がアルコール多飲者や脂肪肝が原因ですが、最近では肥満、糖尿病など生活習慣病を有する方からの発症が増加しています。『科学的根拠に基づく肝癌診療ガイドライン』および「肝癌診療マニュアル」から作成された「肝癌治療アルゴリズム」に基づき、以下の治療法を選択します。
・手術療法
(1)肝切除術
肝機能が良好で、腫瘍が3個以内の場合に肝切除術が推奨されます。最近では開腹手術に加え、侵襲を抑え手術創を小さくする腹腔鏡下手術も実施されつつあります。その長所は根治性が高く、局所再発率が低いことです。
(2)肝移植
肝臓を全て摘出し臓器提供者からの肝臓を移植する治療法で、転移がなく、国際基準(ミラノ基準)を満たす場合に考慮されます。わが国では近親者からの生体肝移植が行われることが多いです。肝機能が極度に低下し局所療法が困難な場合に、年齢を加味し、オプションとして考えられます。
・経皮的局所療法
エタノール注入療法や、ラジオ波焼灼療法・マイクロ波凝固術といった、腫瘍に直接、針を穿刺して薬剤を注入したり、焼灼・凝固したりする方法です。
・血管カテーテル治療
(1)肝動脈化学塞栓療法
癌の栄養血管に塞栓物質、抗がん剤、造影剤を注入し、人工的に閉塞させる方法です。腫瘍個数に関係なく、他の治療と併用も可能で、適応の幅が大きいことが特徴です。
(2)肝動注リザーバー療法
癌の栄養血管に管を留置し、定期的に抗がん剤を注入する方法で、肝動脈化学塞栓療法が適応外となる症例に対して行われることが多いです。
・放射線治療
骨転移の疼痛緩和や、脳転移に対する治療、大血管に浸潤を認める場合の治療を目的に行われることがあります。最近では陽子線、重粒子線など、放射線照射範囲を限局可能な治療も開発されています。
・抗がん剤治療(化学療法)
前述の標準治療で効果が期待できない場合に全身化学療法が行われます。最近、腎細胞癌に対して用いられていた分子標的治療薬が、切除不能肝細胞癌に対して承認されました。
・生活の質を重視した治療
癌による疼痛や腹水、浮腫、肝機能障害により腫瘍自体の治療が困難な場合は、症状の原因に応じて、生活の質(QOL)を維持することに重点を置いた治療が行われます。
<表 肝癌治療アルゴリズム>
・日本肝臓学会著「肝癌診療マニュアル:肝癌治療アルゴリズム『科学的根拠に基づく肝癌診療ガイドライン2009年版』」