知っておきたい病気
2022年6月 発達障害について
わたなべクリニック
渡邊 俊介
発達障害という言葉を皆さんも一度は聞いたことがあると思います。発達障害はここ数年ほどの間に日本国内の認知が進み、医療関係者はもちろんのこと、保育・教育関係者にも理解が広がっています。テレビやインターネットにも取り上げられることが多く、一般の方にも知られるようになってきました。
発達障害という診断を受ける方は増えていますが、発達障害の人が急に増えたわけではありません。以前から発達障害の人はいたのですが、やっと診断がつくようになっただけなのです。
発達障害の子供は知的障害を伴う場合も伴わない場合もありますが、いずれの場合も脳機能の障害で、非定型形の発達を示します。想像力やコミュニケーション能力、集中力などに凸凹があり、その特性から周囲の人や環境に合わせることが難しく、回りからは「困った行動」に見えることがあります。
この脳機能の障害は生まれつきのものです。決して親の育て方の問題やメディアなどが原因ではありません。小さい頃は周りとの違いに気づかれないこともありますが、成長の過程で徐々にトラブルが目立つようになり、受診、診断に至ることが多いです。
途中から発達障害になることはなく、大人になって急激に問題が現れた場合は、別の精神疾患の可能性があります。
発達障害には「自閉スペクトラム症(ASD)」「注意欠如多動症(ADHD)」「限局性学習症(LD)」「発達性協調運動障害(DCD)」などの種類があります。
自閉スペクトラム症(ASD)の人は「空気が読めない」「人の気持ちを汲み取るのが苦手」「一人遊びが多い」「こだわりが強い」「感覚が敏感もしくは鈍感すぎる」といった特徴があります。「スペクトラム」というのは連続体という意味で、一人で生活するのが困難なほど症状が強い人も、自己コントロールに軽度の困難を覚える程度の人まで、明確な境界線を引くことはできず連続している、という考え方です。
注意欠如多動症(ADHD)の人は「忘れ物やミスが多い」「掃除や片付けが苦手」「ぼんやりとしていることが多い」といった不注意による特徴と、「じっとしていることが出来ない」「思いついたことをすぐに口にしたり、衝動的な行動が多い」といった多動・衝動性による特徴がみられます。不注意の特徴が優位にみられる人もいれば、多動・衝動性による特徴が優位にみられる人もいて、症状の出方は様々です。
限局性学習症(LD)とは視力や聴覚の問題や、知的な遅れもなく、教育環境も整っており、本人が努力しているにも関わらず、文字や数の読み書きや操作(文章を書くなど)が著しく苦手な状態です。たとえば読字障害の場合なら、文字が読めないので試験問題を解くことはできないけど、読み上げてもらえば理解できて答えることが出来る、といったケースがあります。
発達性協調運動障害(DCD)は上記の3つの障害に合併することが多く、全身を使う粗大運動や指先などの微細運動のどちらも苦手です。「不器用」「運動音痴」と片付けられてしまうことが多く、子供たちにとっては自信を無くし、自尊心が低下することにつながってしまうことがあります。
上記の4つの障害は、それぞれ独立して存在しているというよりは、その特性が重なり合って存在していることが多いです。「ADHD」だけの特徴を持ってる人もいれば、「ADHD」と「ASD」の特徴の両方を持っている人、「ADHD」「ASD」「LD」の3つの特徴を持っている人もいます。それぞれがどれくらいの比率で表れるかは人によって違い、障害の特性の濃い薄いも人によります。発達障害といってもその特性は一人ひとり大きく異なり、生活での困り具合も人によって大きく違います。
発達障害は病気ではなくその人のもつ特性です。何かをすれば治る、といたものではありませんが、早期から介入を行うことで、将来的な社会への適応能力は大きく変わっていきます。気になる場合は必ず小児科医や精神科医など専門家の診断を受けてください。そして、どのような支援が受けられるのか、薬を飲んだ方がいいのか、療育はできるのかなどの具体的な相談を行うことをお勧めします。