一般社団法人宇部市医師会

知っておきたい病気

2021年9月 子宮頚癌予防ワクチンについて

はしもと産婦人科医院
橋本 恭治

子宮頚癌は96%がHPV(ヒト乳頭腫ウィルス)によるものだということがわかっていて,日本では毎年約1万人がかかり,約3000人が命を失っています。子宮頚癌を予防するためにはHPVの感染を予防すればよいことになります。そのためにHPVワクチンを打ちましょうということになります。

HPVワクチンには、2価(16型、18型)(サーバリックス)と4価(6型、11型、16型、18型)(ガーダシル)、そして9価(6、11、16、18、31、33、45、52、58型)(ガーダシル9)があります。型というのはHPVの種類のことで、100種類以上あると言われていて、その型によって悪性化するものとそうでないものがあることがわかってきています。2020年10月、スウェーデンのチームが「HPVワクチンが子宮頸がんそのもののリスクを63%低下させた」との研究成果を発表しました。より多くの型のHPVに効果のあるワクチンの方が効果が期待できると思われますがガーダシル9はまだ公費での接種はできません。ワクチンの効果から考えると接種は大変意義のあることですがそれは副反応がなければの話です。

副反応が全く起こらないというワクチンはありませんが副反応被害救済制度における障害・死亡率についてはポリオ,日本脳炎などのワクチンが100万人あたり平均1.031人であるのに対しHPVワクチンでは100万人あたり12.61人であり約12倍にもなります。
重い副反応としてはアナフィラキシー(約96万接種に1回),ギランバレー症候群(約430万接種に1回),急性散在性脳脊髄炎(約430万接種に1回),複合性疼痛症候群(約860万接種に1回)があります。いずれも頻度が低いものです。
HPVワクチンを販売開始から平成26年11月まで接種した訳338万人(約890万回接種)のうち副反応疑い報告があったのは2,584人(被接種者約338万人の0.08%,のべ接種回数約890万人の0.03%)
発症日・転帰等が把握できた1,739人のうち回復した方又は軽快し通院不要である方は1,550人89.1%),未回復の方は186人(10.7%,被接種者の0.005%,のべ接種回数の0.002%)

副反応の頻度が低いというとはいえますがもし重篤な副反応が起きた場合に問題になります。HPVワクチン接種後に、広い範囲に広がる痛みや、手足の動かしにくさ、不随意運動等を中心とする「多様な症状」が起きたことが副反応疑い報告により報告されています。
この症状は、何らかの身体症状はあるものの、画像検査や血液検査を受けた結果、その身体症状に合致する異常所見が見つからない状態である「機能性身体症状」であることが考えられています。 症状としては、1.知覚に関する症状(頭や腰、関節等の痛み、感覚が鈍い、しびれる、光に関する過敏など)、2.運動に関する症状(脱力、歩行困難、不随意運動など)、3.自律神経等に関する症状(倦怠感、めまい、睡眠障害、月経異常など)、4.認知機能に関する症状(記憶障害、学習意欲の低下、計算障害、集中力の低下など)など様々な症状が報告されています。
なお、「HPVワクチン接種後の局所の疼痛や不安等が機能性身体症状を惹起したきっかけとなったことは否定できないが、接種後1か月以上経過してから発症している症例は、接種との因果関係を疑う根拠に乏しい」と専門家により評価されています。
また、HPVワクチンの接種歴のない方においても、HPVワクチン接種後に報告されている症状と同様の「多様な症状」を有する方が一定数存在したことが明らかとなっています。

このような「多様な症状」の報告を受け、様々な調査研究が行われていますが、「ワクチン接種との因果関係がある」という証明はされていません。
重篤な副反応が見られた場合症例数が少ないため大規模臨床試験で有効性が確立した治療法は知られていません。しかし少数例の報告や経験的にはステロイド大量療法(ステロイドパルス療法)が有効な場合があるので多くの場合に実施されています。
HPVワクチンを接種するかどうかは本当にワクチンと関係があるかどうかは証明されていないが希ではあるが重篤な副反応が生じる可能性がある。しかし重篤な副反応といえども治療が有効であることがある。子宮頚癌の予防にはHPVワクチンの接種と子宮癌検診が一番よいのですが副反応のことワクチンの効果のことを考えて接種することを勧めます。

ワクチンを打ったから子宮癌検診を受けなくてよいと言うことはありません。最も大切なことは子宮癌検診を定期的に受けることです。