知っておきたい病気
2016年11月 下肢静脈瘤とその治療法
宇部興産中央病院
福田 進太郎
「下肢静脈瘤」と聞くと多くの皆さんが年配の方にみられる、下腿を中心として蛇行しながら拡張した血管を思い浮かべる方が多いと思います。この「下肢静脈瘤」は経過も人様々で、実際に出現してくる症状は更に多様です。今日は「下肢静脈瘤」の原因と症状、治療法について述べたいと思います。
血液は心臓から動脈を伝って脚のすみずみまで流れ、皮膚や筋肉などを通って酸素を供給した後に静脈に行きます。心臓への帰り道である下肢などの静脈の中野血液は重力に逆らって心臓へ、すなわち下から上へ昇らなければなりません。そのために大切な役割を果たすのが静脈の弁とふくらはぎの筋肉です。脚の静脈には多くの弁があり血液の逆流を防いでいます。さらに、ふくらはぎの筋肉が収縮するたびに脚の静脈は圧迫され、弁と強調して血液を心臓まで運んでくれます。このためふくらはぎの筋肉は「静脈の心臓」と呼ばれています。
この弁がきちんと閉じなくなり血液が逆流(うっ血)して起きるのが下肢静脈瘤です。
弁の故障(弁不全)が起きる原因は長時間の立ち仕事や妊娠後期の子宮の圧迫など色々です。うっ血が起こり脚の血液循環が悪くなることで、さらに血液がたまり血管が徐々に太くなっていきます。はじめのうちは静脈が拡張や蛇行するだけですが、さらにひどくなると脚がむくむ、重くなる、だるくなる、疲れやすい等の症状が出現し、更に進行すると脚が痛くなる、脚がつる、歩けなくなるなどの症状が出てきます。このような状態が長く続くと皮膚炎が起きシミのような色素沈着がおきたり、原因不明の痒みが続き、最後には難治性の皮膚潰瘍になってしまい植皮手術を必要とするケースさえあります。またうっ血が続くと静脈瘤の中で血液が急に固まってしまう事があります。これは血栓性静脈炎と呼ばれ静脈瘤が急に腫れ上がってとても痛くなります。
血液のうっ滞による皮膚炎を湿疹と思いこんで長い間塗り薬の治療だけを続けている方もおられます。
「下肢静脈瘤」に対する注意点・治療法
この病気は良性で、弁不全が発生してから長時間をかけて少しずつ症状が悪化していきます。弁不全自体は、多くの場合、大腿の付け根にある深部大体静脈の枝で皮下を通る大伏在静脈の根元の弁が故障することから始まりうっ血によって更に多くの弁不全が起きてきます。肉眼的症状は、代表的な蛇行静脈瘤から網目状、くも状、血栓状まで様々で痒みやだるさのみの時もあります。
外来でエコー検査や、脚をバンドで縛って弁不全の位置を調べます。比較的簡単な検査で診断がつきます。
治療法はまず日常生活の改善です。長時間じっと立ったり、座り続けることは避けましょう。医療用の弾性ストッキングを着用すると症状の進行を抑え、夕方の脚のだるさ、むくみを抑える効果があります。また寝るときに脚を少し高くして休むことも効果があります。肥満も症状を悪化させるので注意が必要です。
ストッキングなどによる圧迫療法はあくまでも対症療法です。更に症状が進行すると外科的治療が必要になります。外科的治療法には1硬化療法、2高位結紮術、3ストリッピング手術(血管抜去術)、4血管内焼灼術があります。1硬化療法は静脈瘤内に硬化剤という薬を注入しさらに静脈瘤を圧迫して癒着・硬化させて治す方法です。大きい静脈瘤の場合は局所麻酔下に静脈瘤を結紮して硬化剤を併用しますが主に軽度の静脈瘤が対象です。2高位結紮術は大伏在静脈の一番奥の弁不全部を結紮して逆流を止める方法で、効果的ですが他に弁不全が多く出来ている場合はそこから逆流が続くため症状が続きます。3ストリッピング手術(血管抜去術)は大腿や下腿、足首に1-2cmの小さい創を3-5か所おき、高位結紮を行った後にワイヤーを使った器具で主な拡張血管を抜去する手術です。手術後外来で2カ月程度日中のストッキング着用が必要ですが症状の改善度は高く、患者さんの満足度も高いので私達はこの方法を多用しています。4血管内焼灼術は最も新しい治療法でカテーテルを血管内に挿入しエコーを使いながら血管周囲に局所麻酔薬を注入しながら血管の内側から静脈を焼いてつぶしてします方法です。レーザーを用いた方法が主流で県内でも行う施設が少しずつ増えてきました。傷も小さく、すぐれた治療法ですがまだ長期の治療成績がでていません。入院期間は日帰りかごく短期間です。
このように静脈瘤は身近な病気ですが、様々の症状があるために見落とされているケースがかなりあります。治療後「もっと早く手術すればよかった」と言われる患者さんも多く、脚のだるさ、むくみ、皮膚炎、傷の治癒が悪いなどの症状が続く時には一度外科外来を受診してみてください。