知っておきたい病気
2017年4月 高齢者の糖尿病
たお内科クリニック
田尾 健
急増する高齢の糖尿病患者
我が国では現在約1000万人の糖尿病患者さんがいると報告されています。特に高齢者において糖尿病の比率は著しく増加しており、今や70歳以上では4割前後が糖尿病またはその予備軍です。寿命が80歳、90歳と延びるなか、高齢期に健康で質の高い生活を過ごすためには上手に糖尿病と付き合っていく必要があります。高齢者に対する糖尿病治療においてはいくつか注意しないといけないことがあります。
高齢者では低血糖に特に注意
第一に高齢者では低血糖が起こりやすいことに注意する必要があります。薬を分解・排泄する肝臓や腎臓の働きが低下しているため、血糖を下げる薬が効きすぎることがあるからです。特に80歳以上では重症低血糖が起こりやすく、これにより認知症、転倒、心筋梗塞や脳卒中を引き起こすことがあります。一方、加齢により自律神経や認知機能が低下するため典型的な低血糖症状が出ずに見逃されることがあります。重症低血糖はインスリンやスルホニル尿素薬で治療中の患者さんで起こりやすいので、該当する患者さんは注意が必要です。
糖尿病に合併する認知症
糖尿病があると、糖尿病がない人と比べて認知症に約2倍なりやすくなることが知られています。更には、糖尿病による血管障害が認知症の症状を加速させるといわれています。認知症があると食事や運動習慣の是正が困難となったり服薬が守れなくなったりして、治療が難しくなります。また、インスリン等の注射で治療している方は介助が必要となります。
身体機能の維持が重要
高齢になると筋力が低下し動作の俊敏性が失われ、また神経障害にもかかりやすくなり、立つとフラフラすることが起こりやすくなります。筋力低下を防ぎ、身体機能を維持することが重要です。身体機能の低下は日常生活動作(ADL)を基準にして三つの段階に分類します。まず、健康で自立した生活が送れる状態を「ADL自立」といいます。次に、買い物や食事の準備、預金の出し入れといった比較的複雑な活動ができなくなった状況を「手段的ADL低下」といいます。さらに身体機能が低下し、入浴、着衣、トイレの使用などの基本的な日常生活動作ができなくなった状態を「基本的ADL低下」といいます。糖尿病の方はADLの低下が起こりやすく、これが進むにつれて死亡リスクが高くなります。したがって、高齢者の糖尿病治療において身体機能を悪化させないことが重要です。そのためには、まず運動に筋肉トレーニングを取り入れることやバランスの良い食事を心がけ十分なエネルギーとたんぱく質をとることが大切です。
新しくなった血糖コントロール目標値
高齢の糖尿病患者の認知機能、身体機能、使う薬は一人ひとり異なります。さらには精神的背景、家族関係などの社会的条件を合わせると個人差は顕著です。したがって個別的にきめ細かく治療を行う必要があります。そこで昨年5月に日本糖尿病学会と日本老年医学会は合同で、年齢、重症低血糖が心配される薬の服用の有無、認知機能、身体機能によって定められた「高齢者糖尿病の血糖コントロール目標」(表)を発表しました。従来糖尿病合併症予防のため血糖コントロールの目標はヘモグロビンA1c(過去1~2か月の血糖値の状態を示す検査)7.0%未満とされていましたが、高齢者糖尿病の場合には病状により目標値が最大で8.5%未満に緩和されました。とくに低血糖が心配される薬を服用している場合には、目標値の下限が設定されています。低血糖リスクを考え、下限値より低い値を目指さないということです。
大切なことは高齢者糖尿病の特徴をふまえ、病状に応じて個別に管理目標値を定めようとすることです。病状の個人差は大きく、必ずしもこの表のとおりにはいかない場合もありますので、あなた自身の目標値については主治医の先生にご相談ください。
(表)高齢糖尿病患者の血糖コントロール目標