一般社団法人宇部市医師会

知っておきたい病気

2017年3月 機能・代謝イメージングによる病態や腫瘍診断:SPECTとPET

セントヒル病院 放射線科
菅 一能

・機能・代謝イメージングで医療に貢献するSPECTとPET

市民の皆様には、広く普及しているCTやMRIは知っている方は多いと思いますが、核医学検査のSPECT(スペクト)とPET(ペット)には、なじみが少ないと思います。SPECTとPETは、さまざまの臓器や腫瘍などの機能・代謝イメージングを得る検査で、体内に投与したごく微量の放射性医薬品の分布の詳細をCTやMRIと同様に身体の断面像で見るものです。画像化する方法の詳細は略しますが、実は最近に日本がノーベル物理学賞を受賞した実験施設のスーパーカミオカンデの装置と同様の原理で、放射性医薬品が放つ放射線により検出器が光り、その光を光電子増倍管で電流に変え画像を撮像します。非常に鋭敏な方法です。
CTやMRIは病変の形態をみる検査ですが、SPECTとPETは形態ではなく病変の機能や代謝をみることで病気の診断に役立っている検査です。たとえば、心臓や脳の虚血性疾患の場合、最近のCTやMRIでは心臓や脳に血流を送る冠動脈や脳動脈が詳細に描出され狭くなっている個所がわかりますが、実際に心臓や脳の組織がどの程度に血流が少なくなっているかの判定には血流SPECTやPET検査が必要になります。重篤な例では、狭くなった心臓冠動脈や脳動脈を広げることで回復できる心臓や脳組織がどの程度あるのかを判断するのに用いられます。腫瘍SPECT検査では、カテコールアミン産生腫瘍はノルアドレナリン類似のI-123(ヨウ素)-MIBGという放射性医薬品が特異的に集積することで診断され、神経内分泌腫瘍はソマトスタチン受容体に結合する111In(インジウム)-ペントレオチドという放射性医薬品が特異的に集積することで診断されます。機能・代謝イメージングのSPECTとPET検査の守備範囲は広く、多彩な放射性医薬品を使用して全身の各種臓器や腫瘍などの病態診断を行ない医療に大きく貢献しています。

・SPECT/CTやPET/CTハイブリッド装置はオール・イン・ワン

最近では、SPECTとPET 装置にCT装置も組み込まれたSPECT/CTやPET/CTハイブリッド装置が普及してきており、SPECTやPETで得られる機能・代謝画像とともに、CTによる形態画像を同時に撮像して、両者の融合像により、病変や臓器の形態とともに機能・代謝などの中身も同時に診ることで、精度の高い検査が行なわれ診断能が向上しています。腫瘍の場合、CT画像では腫瘍の形や大きさは良好に描出されても生物学的活性度は不明ですが、SPECTやPET画像が教えてくれます。CT画像では検出できなかった予期せぬ所にある腫瘍を、SPECTやPET画像では異常な機能や代謝を営む病変として検出できる例も少なからずあります。特にPET/CTは、全身を一度に見渡す検査となり、一度に形態も機能・代謝も評価できますので、オール・イン・ワンの検査法といわれています。

図1:Tc-99m-MIBIという放射性医薬品は副甲状腺細胞のミトコンドリアの豊富な細胞を反映して集積する。SPECT/CT 融合像により食道の近傍に大きさが12mmの異所性の副甲状腺腫があることがわかる(矢印)。

・F-18-FDG-PET/CTは「がん」診療に大きく貢献

ここから、各種PET検査のうち、最近、最も広く行なわれ「がん」診療に大きく貢献してているF-18-FDG(エフディジー)というブドウ糖に似た放射性医薬品を用いるFDG-PET検査について述べます。
がん細胞は糖代謝が高く正常細胞に比べ多くのブドウ糖を取り込むという性質を持っていますが、FDG-PET検査はその性質を利用し診断に役立ちます。放射線を出すラジオアイソトープ(F-18)で標識したFDGを静脈注射で体内に投与し、約1時間後に撮像した全身画像でFDGの集まった様子から細胞の代謝を見て、がんの発見や診断を行なう検査です。苦痛を伴わず、20分間ほど動かず横たわるだけで全身を一度に見渡す検査できるのが大きな特徴です。先に述べたPET/CTハイブリッド装置が広く使用され、代謝画像であるFDG-PETと、形態画像のCTを同時に行うため、病変の位置や広がりがより詳しく確認でき、ほかの画像診断でとらえにくい「がん」の検出も可能です。機器性能の向上とともに5mm程度の大きさの「がん」を見つけ出すことも可能です。
現在では、FDG-PET /CT検査の保険適用範囲が広がり、早期胃癌を除く各種悪性腫瘍に適用されます。全身を撮像することで、がんの進行度、つまり病期診断が可能となり、がんのブドウ糖代謝を評価することで、化学療法や放射線治療・粒子線治療後の効果判定や、再発診断にも有用で、がん診療の現場では大変重要な検査となっています。このうち、化学療法や放射線治療・粒子線治療後の効果判定では、治療効果がある場合には腫瘍が小さくなる前に早くからFDGの取り込みは低下するので、早期に治療が有効かどうかが判定できます。また、治療後にCT画像で病変が残っていても、PETでFDGの取り込みがない場合には、腫瘍活性がないことが確認できます。治療効果判定では『がんは形じゃない“中身”だよ!』です。再発診断では、全身を一度に見渡すFDG-PET /CTでは、予期せぬ部位に転移した「がん」の発見にも役立ちます。早期に再発病変を見つけると、より良い対応処置ができます。

図2: PET/CTハイブリッド装置。同じ体位で撮像される位置づれの少ないPETの機能・代謝画像とCTの形態画像の融合像が得られ精度の高い検査が行われ診断能は向上する。

・F-18-FDG-PET/CTは「がん検診」にも威力

がん診療の現場で大変重要な検査となっているFDG-PET/CT検査は、がん検診にも威力のある検査法として注目されています。日本で世界に先駆けて開始されたFDG-PETによる「がん」検診は、既に20年以上の歴史があり、日本独特のがん検診の検査法の1つとなっており、現在1年間に10万人が受診されています。FDG-PETによる「がん」検診を適正に行うため日本核医学会分科会PET推進協議会 から『FDG-PET がん検診ガイドライン 』も出されています。2009年度のFDG-PETがん検診アンケート調査では、FDG-PET検診で見つけられた「がん」で多いものは甲状腺癌、大腸癌、肺癌、前立腺癌、乳癌、胃癌、 膵臓癌、悪性リンパ腫、腎癌などがあり、ほかに多発性骨髄腫や骨腫瘍などを含め、多様な「がん」が発見されるのが従来の「がん」検診にはない特徴となっています。FDG PET検診で 「がん」が見つかる頻度は100人中1.2-1.6人です。臓器別に行なう通常の検診と比べ、FDG-PET検診では多様な「がん」が見つかり、5-10倍ほど発見率は高い状況です。
ただし、FDG-PET 画像で発見しにくい「がん」もあり注意が必要で, FDG-PET/CT検査では、CT画像での形態変化を詳細にみる必要があります。例えばスキルス胃癌や粘液成分の多い嚢胞性の悪性腫瘍や、悪性度の低い前立腺癌、比較的小さい脳腫瘍などです。「がん」といっても代謝が高くないものはFDGが集まりにくい例があり、またFDG は尿中に排泄されたため、尿路系、特に膀胱癌の発見は困難です。FDGが集まりにくい「がん」を見逃さないため、『FDG-PET がん検診ガイドライン 』では、内視鏡検査や超音波検査、各種腫瘍マーカー、便・尿検査などを組み合わせることを推奨しています。

図2: 検診で見つかった膵癌。FDG-PETで病変がブドウ糖摂取の高い部として描出されているが、PET/CT融合像で膵臓尾部にあることが確認される。

・検診は身体を見つめなおす良いチャンス

2016年末に日本癌学会、日本癌治療学会が開催されましたが、最新の目覚ましい「がん」治療の報告とともに、両学会で繰り返し指摘されたことの1つに『がん予防・がん検診』の重要性があります。40代を越えると気になる「がん」検診ですが、受けたいと思いながらも、“まだ―――、忙しいし―――”という方も多いのではないでしょうか。「がん」は多くの場合、自覚症状がないまま進行しますので、早期発見のためには定期的にがん検診を受けることが大切です。日本は高齢化社会となり、今や、2人に1人が「がん」になる時代です。「がん」が心配な方、50歳以上の方、現在喫煙中或いは過去に喫煙していた方、家族・親戚にがんの病歴がある方などは、特に早期発見のための PET/CT 検診をお勧めします。また、「がん」予防には、バランスのとれた食事や適当な運動、良質の睡眠等、日ごろの生活習慣を見直すことも大事です。検診は自分自身の体を見つめなおす良いチャンスです。検査技術は日進月歩で進んでおり検診のイメージも変わりつつあります。FDG-PET CT検診を含め、検診を受けられ、検診結果を元にライフスタイルを見直して「がん」予防に必要な対策をとれば、高齢になってもより良い生活が可能となり医療費削減にも繋がります。