知っておきたい病気
2018年4月 高齢者の糖尿病
宇部興産中央病院 糖尿病・血液内科
井本 忍
わが国では糖尿病有病者がとうとう約1千万人に達しました。さらに超高齢社会の急速な進行により高齢者糖尿病患者さんの増加が特に目立っており、70歳以上の高齢者糖尿病が全糖尿病人口の半数近くを占めるようになりました。年を取ってくると膵臓の機能が低下し、血糖を下げるインスリンの分泌が低下します。また運動量の低下や筋肉量の減少のため糖分の消費も減ってくるため、高齢者では食後の高血糖を来たし糖尿病を起こしやすくなったり悪化したりします。高齢糖尿病患者さんは、神経障害や網膜症、腎症、動脈硬化などの糖尿病合併症以外に、筋肉減弱(サルコペニア)や虚弱(フレイル)による活動性の低下、脳や腎・骨などの臓器機能の低下から認知症や尿路感染・骨粗鬆症などを合併しやすくなります。特に腎機能低下では内服薬の制限や用量調整、有害作用への注意が必要になってきます。薬が効きすぎて低血糖を起こすこともあり、さらに低血糖に気づかず意識障害を来たし昏睡に至る場合(無自覚低血糖)もあります。
また糖尿病治療中の高齢者と言っても、元気で自立している高齢者から施設入所を余儀なくされている方まで様々です。単純に年齢だけでは判断できません。身体状況や合併症、併存疾患、家族や地域社会の協力・サポートなどでも糖尿病の療養の取り組みが変わってきます。そこで高齢者の日常生活での機能評価や自己管理能力の評価を行って治療介入の必要性の程度を総合的に判断するようにしています。自己管理が困難で家族も当てにできない独居や老老介護の場合もよくあり、地域で支えてもらう必要があります。
高齢者糖尿病の治療は一般の糖尿病患者での治療とあまり変わりませんが、サルコペニア、フレイルを考慮して過度な摂取カロリー制限は控えるようにします。食べやすい糖分(ご飯・パン・麺類や甘いもの、果物)に偏りがちなので糖質過剰摂取は避けるようにして、重度の腎障害がなければ十分なタンパク質をとることが勧められます。減塩は心がけましょう。また定期的な身体活動や歩行などの運動療法は血糖コントロールだけでなく、体力や認知機能の維持に有効です。筋力トレーニングも筋力を増やし脂肪量を減らすのでより効果的ですが、血圧や脈拍が変動しやすくなるので心臓に問題がある人は注意が必要です。
血糖が高くなってしまうとますます内服薬が増えてしまいますが、内服薬は高齢者には使用しにくい場合や効果が少ない場合もあります。インスリンなどの注射で管理する方が案外シンプルでうまくいく事も多く、注射器も使いやすくなっています。たくさんの内服管理でも調整が難しく困っている場合には注射製剤への切り替えも一つの方法ですので主治医に相談してみてください。