一般社団法人宇部市医師会

知っておきたい病気

2018年5月 『慢性腎臓病 –ご自分の腎臓の機能を知って病気を予防しましょう』

厚南セントヒル病院
内山 浩一

1. はじめに

「腎臓が悪いとは聞いちょったけどそこまで悪いとは知らなかった‥」
透析が必要になって厚南セントヒル病院を受診される患者さんのなかにはこのようなことを言われる方が少なからずおられます。確かに尿毒症症状(むくみ,痒み,食欲低下,不眠,動悸,息苦しさ等)が自覚できるのは透析が必要になる直前、腎臓機能が健常時の15%未満になってからですので、症状で早期の腎臓の機能低下を知るのは無理な話です。また、腎臓の機能を調べるために行われる血清クレアチニン検査では腎臓機能の低下を早期に発見することは難しく、異常値を示したときにはすでに腎臓の機能は50%未満になっています。

2. 腎臓とは?

腎臓は通常体内に2個存在し、血液中の余分な水分,塩分,老廃物を濾過して尿を産生することできれいにしています。また、血圧を調整したり、貧血を治したり、骨を丈夫にするホルモンの産生や活性化を行っています。腎臓の機能が低下し健常時の60%をきってくると高血圧が出現します。さらに腎臓の機能が低下し50%未満になると心筋梗塞や脳卒中を発症しやすくなることが知られており、その頻度は健常人の約3倍です。ですからこの時期に合わせて心臓や脳の検診を受ける事は突然死を予防するのに重要だと言えます。腎臓機能が30%未満になると貧血(腎性貧血)が出現します。最終的に腎機能が15%をきると尿毒症症状が自覚できるようになります。
腎臓の機能は年をとること(加齢)でも低下しますが、慢性腎臓病がない方の低下は緩やか(年1%未満の低下)とされています。
重要なことは慢性腎臓病を早期に発見して腎臓の機能低下とそれによる合併症を未然に防ぐことです。

3. 腎臓の機能低下を知るには?

では、どのようにして腎臓機能の低下を知ればよいのでしょう?答えは血液検査と尿検査を行うことです。血液検査で判明した血清クレアチニンの値と年齢,性別をもとに推算糸球体濾過量(eGFR)を算出します。この数値は簡単に言うと皆さんの腎臓が1分間にきれいにできる血液の量にあたります。eGFRを算出することで現時点での腎臓の機能が判明しますので年齢相応の腎臓機能が維持出来ているかを知ることができます。次にeGFRの測定を一定間隔で行うことによりどのぐらいの速度で腎臓機能が悪化しているかが判明します。低下速度が早い人は治療を行うことで低下速度を緩めたり、時に回復させたりすることも可能です。

尿検査では尿中への血液や蛋白の漏れを調べます。赤血球の漏れが高度な方,蛋白が微量でも漏れている方の腎臓機能低下速度は健常人よりはるかに早いので、現時点でのeGFRの値が高くても安心できません。同様に尿蛋白の漏れが多い方では心筋梗塞,心不全,脳卒中の危険度が高くなります。

慢性腎臓病の定義は①eGFRが60未満になる②検尿異常がある等のいずれか、または両方が3ヶ月以上認められることです。原因となる病気で多いものは糖尿病,高血圧,慢性糸球体腎炎,高尿酸血症ですのでこれらの治療を受けられている方は特に注意が必要です。

4.最後に

検診やかかりつけの医療機関で採血検査や尿検査をされる方は多いと思います。一度ご自分の腎臓機能について尋ねられてはいかがでしょう?年齢にもよりますがeGFRが50未満の方や尿検査で蛋白(1+)以上の方は慢性腎臓病の精密検査をお勧めします。
超高齢社会を迎える現在、病気になる前の予防医療が重要です。高齢になっても健康で長生きすることは立派な社会貢献ではないでしょうか。

表)
慢性腎臓病患者が専門医の診療を受けるべき基準
(日本腎臓学会CKD診療がイド2012)

  1. 尿蛋白量が多い場合:尿蛋白2+以上
  2. 尿蛋白1+かつ尿潜血1+以上の場合
  3. eGFR(推算糸球体濾過量)50ml/分/1.73m2未満の場合