知っておきたい病気
2018年10月 スポーツ選手に多い膝のケガ:前十字靭帯損傷
宇部興産中央病院
森脇 透
酷暑も過ぎ涼しいスポーツシーズンとなりました。競技中心のトップアスリートでなくともこの前十字靭帯損傷はあらゆる種目に発生するスポーツ外傷の一つです。靭帯損傷といっても足関節靭帯損傷(いわゆる足首の捻挫)などはテーピングの効果も高く保存療法がかなり有効なのですが、前十字靭帯は自然治癒能力が極めて低く、断裂するとほぼ保存療法は無効でありスポーツ選手、愛好家にとって悩める怪我の一つです。
膝関節には大きく分けて4本の靭帯があります(図)。この4本で横方向と前後方向の安定性を維持して方向転換やジャンプ着地の際に踏ん張っているのですが、前十字靭帯はこの中で前方への亜脱臼を防ぐ役割を担っています。受傷場面としては相手からのタックルばかりでなくジャンプ着地、方向転換(ターン、カット)などの非接触型損傷も多く、その際には下肢が外反(膝が内に入る形)し「バチン!」と切れただとか、膝が外れた、といった自覚所見を感じることがよくあります。膝は腫れ、多くは歩行困難となります。
診断は診察での理学所見(徒手テスト)に加えてMRI(核磁気共鳴写真)でほぼ確定出来、治療は、競技を継続する場合は手術が中心となります。競技中心の生活でなくても日常生活、仕事で膝くずれを自覚する方や若年例では手術が必要です。
現在この手術は関節鏡視下再建術が主流です。前十字靭帯は自然治癒能力が低いため断裂した靭帯を縫合しても癒合せず、再び機能不全となりますので自家腱を移植する手術を行います。膝の裏の屈筋腱を移植する方法と膝前面の膝蓋腱を移植する方法の2種類が選択されることが多く、腸脛靭帯や大腿四頭筋腱を移植材料として選択する場合もあります。それぞれメリット、デメリットがあり執刀医が選手の特性、レベルに応じて使い分けていますが、1種類に決めて行っている施設もあります。復帰は一般的には術後8か月から10か月を目標としており、これは術式、受傷前の選手の筋力、バランス能力によるところが大きく、リハビリ経由し目標レベルに達した段階で復帰となります。ここで大事なことがあります。よく、「プロは6か月で復帰したのだから私も、、、」といわれる選手、指導者がいるのですが、プロや代表クラスの選手と、一般アマチュア選手の筋力(特に体幹)、バランス能力は違います。当科では術前にBiodexで筋力、フォースプレートでバランス能力を測定していますがJリーグプロ契約選手、代表レベルの選手と一般のスポーツ選手愛好家では歴然とした差があります。また、術後1日4~6時間のリハビリを行える環境にあり、チーム専属のアスレチックトレーナーが存在するトップ選手と、学校や仕事のあるアマチュアでは術後のリハビリ環境も雲泥の差です。一般的には術後半年以内の復帰は移植靭帯の強度が足りないので再断裂の危険性が高くなり、推奨できません。移植靭帯の十分な成熟に半年以上、筋力やバランス能力の向上に8か月以上必要であり十分な術後リハビリが大事であると考えてください。
現在J2リーグで健闘中のレノファ山口ですが、この原稿を作成している段階では15試合ぶりに勝利をおさめたところです。掲載時にどの順位に上がっているか楽しみなところです。ぜひスタジアムへ足を運んでいただき、応援よろしくお願いいたします。