一般社団法人宇部市医師会

知っておきたい病気

2018年11月 結膜炎って言われたら

くろいし眼科
永谷 建

「結膜炎ですね!」と言われたらあなたはどう感じますか?「わあ、大変だ!人にうつる!」と思われる方、結構多い気がします。でも実は結膜炎には多くの種類があります。その中で人にうつる結膜炎は一部です。それと、結膜炎を比較的重篤な病気と感じる方もおられますが、結膜炎とは球結膜(白目)や瞼結膜(赤目)の細い血管が拡張して赤く見える状態(充血)や目やにが出ている状態を示しているだけで、症状も軽度なものから重度のものまで様々です。だから、結膜炎と言われたからといって、即慌てる必要はありません。
結膜炎には原因によって以下のような種類に分類されます。

  1. 細菌性結膜炎
  2. ウィルス性結膜炎
  3. アレルギー性結膜炎
  4. 乾性角結膜炎
  5. 異物混入や外傷による結膜炎
  6. 薬剤性結膜炎
  7. その他の結膜炎

などです。

1、細菌性結膜炎

いわゆるばい菌による結膜炎です。結膜炎を起こす菌は、インフルエンザ菌(インフルエンザウィルスとは違います)、肺炎球菌、黄色ブドウ球菌などです。これらの菌は元々人間の体に普段から存在する常在菌であり、感染性は強くありません。適切な抗菌剤を使用すれば治癒しますが、効きが悪い時は目やになどから細菌培養を行なって、どのようなばい菌が原因か特定し、効果の高い抗菌薬を使用する必要があります。それと、抗菌剤をダラダラと長期間使うと、ばい菌に薬が効かなくなる(薬剤耐性)事があるので注意が必要です。但し、性行為感染症である、淋菌やクラミジアによる結膜炎は要注意です。何故なら通常よく使われる抗菌剤では効果が期待できないからです。更に他の細菌性結膜炎よりも人から人へ感染する可能性が高いです。

2、ウィルス性結膜炎

1番有名なのは、いわゆる「はやり目」であるアデノウィルス結膜炎です。非常に感染力が高く、結膜炎=うつるというイメージを作った結膜炎です。やっかいなのは、潜伏期間が数日から7日あり、潜伏期間の間も人に感染する可能性がある事です。感染した人の涙や目ヤニからうつります。いったん発症すると、通常は片目の白目が真っ赤に充血し、異物感と涙のような透明な目ヤニが出ます。耳たぶの前あたりのリンパ節が腫れて触ると痛いのも特徴です。時に黒目にも強い炎症が起こり、斑点のような濁りが黒目に出ることもあります。そうなると見え方も霞んできます。また、他人にうつるのみならず、自分の反対側の目にもうつる事が多いです。ウィルスを直接やっつける方法がないため、治療は通常抗菌薬の点眼で他の菌による2時感染を予防し、その人自身の抵抗力で自然治癒するのを待つというのが一般的な眼科の教科書に書いてある治療法ですが、実際は充血や異物感がとても辛いので、低濃度のステロイド点眼を併用して充血などの炎症を抑えることが多いです。黒目に濁りが出た時にはステロイド点眼に加えて角膜保護の為ヒアルロン酸の点眼も追加します。通常1週間から10日程で治りますが、どちらかというと子供は症状が軽く、20代から30代くらいの体力がある大人の方が症状が強い印象があります。理由ははっきりしませんがおそらく抵抗力があるほうが、ウィルスとの戦いが長引くのではないかと思っています。近年特に感じる事ははやり目の流行が通年性になった事です。以前は夏のプールの時期やウィルスの活動が活発になる冬に多かったのですが、最近そのような季節性が薄れています。一因として、室内プールの増加でプールの時期が一年中ある事、保育園などでの集団発生と子供達から保護者への感染が考えられると思います。この結膜炎は前述したように潜伏期間が数日あるため、なかなか予防が難しいのですが普段から石鹸を使ってよく手を洗う事、ハンカチやタオルの使い回しをしないよう気をつける事である程度予防効果があります。アルコールを使ったすりこみ式の手指消毒剤も有効です。アデノウィルス結膜炎は学校伝染病の為、治るまでは学校に行ってはいけませんが欠席扱いにはなりません。
アデノウィルス結膜炎に似たものとして、エンテロウィルスの感染によって起こる急性出血性結膜炎がありますが、潜伏期間が1日と短いのが特徴でアデノウィルスに準じた治療を行います。
ウィルス性結膜炎にはその他ヘルペスウィルスによるものなどありますが、人から人への感染性はほとんどありません。

3、アレルギー性結膜炎

スギ、ヒノキ、ブタクサ、イネ、ヨモギなどの花粉によって起こるものとハウスダストやダニ、動物の毛などによって起こるものがあります。前者は季節性がありますが、後者は通年性です。痒みがあるのが特徴で、感染症ではないので人にうつる事はありません。治療は抗アレルギー剤の点眼が基本で効果が不充分な時はステロイド剤の点眼を追加します。アレルギー性結膜炎の重症型とも言えるアトピー性結膜炎や春季カタルでは、状況に応じて免疫抑制剤の点眼も行います。

4、乾性角結膜炎

いわゆるドライアイです。目の表面は常に濡れている必要があります。乾燥すると充血やびらんなどの結膜炎症状を起こします。ドライアイの原因はいろいろありますが、加齢やコンタクトレンズの装用なども一因になりえます。もちろんうつりません。
治療は角膜保護剤のヒアルロン酸点眼や、涙液成分の分泌を促進する点眼剤を使用します。また点眼剤以外にも、涙点プラグという目から鼻に抜ける涙の下水管に蓋をして涙をためやすくする治療もあります。これは簡単な処置で行うことができます。

5、異物混入や外傷による結膜炎

ゴミが入ったり、物が目に当たったりして起こる結膜炎です。治療は異物の除去や消炎剤や抗菌剤の点眼を行います。

6、薬剤性結膜炎

意外に思われるかもしれませんが、点眼剤そのものに対する結膜炎です。ほとんどの点眼剤には防腐剤が含まれています。代表的な物が塩化ベンザルコニウムです。これらの防腐剤は点眼剤の安定性を保つために必要ですが、時に薬剤アレルギーを引き起こします。また点眼剤の薬効成分そのものにも人体に有害な影響を及ぼす場合があります。もちろん誰にでも起きるわけではありませんが、対処としては可能な限り防腐剤が入っていないか含有量の少ない薬剤を使う。その人に合わない薬がわかったら速やかに使用を中止し他の薬に変えるなどです。

このように一口に結膜炎といっても、原因も病態も治療も様々です。そのため、どのような結膜炎かを正確に診断し適切な治療を行うことが重要です。近年、アデノウィルス結膜炎とアレルギー結膜炎については、簡単な検査で短時間に判定が可能になってきています。目が充血したり目ヤニが出た場合、やみくもに市販薬で対処せず眼科で正確な診断と治療を受けられる事をお勧めします。