知っておきたい病気
2018年12月 冬のお肌のかゆみ:皮膚掻痒症
なにわ皮ふ科医院
浪花 志郎
低温乾燥の冬季には、お肌の燥肌から皮膚掻痒(そうよう)が発現しやすく、不快なストレスの方が増加と推察されます。
1 肌の構造と新陳代謝
皮膚は表皮、真皮、脂肪組織の3層構造です。表皮細胞は約3日に1回ほど分裂・増殖し、順次表面に押し上げられて、重なって、生きた細胞層を形成します。約1か月後に角質細胞(あか)となって角質層に移行し、さらに押し上げられて、約2週間後に皮膚表面から剥離・脱落します。
2 肌の乾燥化
毛包付属の皮脂腺から分泌される皮脂は、毛孔から皮脂膜となって皮膚表面を薄く被覆し、水分蒸発を調整します。また、表皮細胞から産生される保湿成分も同様の働きをしています。以上の成分は高齢化に伴って徐々に減少し、蒸発していく水分量は増加していきます。たとえば、青・壮年期の角質層水分濃度が20%だと、高齢期では10%~5%に低下していき、皮膚の乾燥化が顕著となります。
3 肌のかゆみの発生
かゆみとは、皮膚末端のかゆみ担当知覚神経細胞が興奮して、その信号が脳脊髄神経回路を伝って脳内かゆみ担当中枢部に感知されている現象です。かゆみ担当知覚神経細胞がなぜ興奮しているのか? そのほとんどは、ヒスタミンという物質の刺激で興奮すると考えられています。真皮内の肥満細胞は普段は静かにヒスタミンを蓄積しています。何らかの理由で刺激されると、ヒスタミンは大量放出され、かゆみ知覚神経細胞を刺激して、かゆみ信号が発現します。殊に日常生活の何気ない動作により乾燥肌が衣類でこすれていると、その機械的刺激が肥満細胞を刺激しやすくなります。
4 かゆみに対しての対応
1)入浴
家庭内での入浴の目的は 皮膚表面の異物や微生物あるいは古い角質細胞を除去、血行を改善して身体を温める、気分をリフレッシュする、この3点です。高齢者では、皮脂膜を過度に洗い流すと皮膚の乾燥化が促進されますので、石鹸類の使用は3日に一度ほどがお奨めです。
2)衣類
綿類はそれほどの心配は無用ですが、化繊類を直接素肌に身につける日には、こすれ過ぎには気を配っておきましょう。
3)スキンケア
皮膚表面のしっとり感を維持していくために、保険診療ではワセリン類、尿素類、類ヘパリン様物質などが外用剤として頻用されています。外用の際の種類、濃度、量、頻度は顔面、体幹、四肢などの部位によっても個人差があり、また気象変動、室内エアコン環境などの影響も強く受けますので、自分に都合の良い条件=至適条件は医師のアドバイスを参考に、自分で試行錯誤的に見出すことも重要です。
4)薬物療法
- 通常の生活では昼の脳中枢神経は緊張していますので、皮膚末端からのかゆみ信号はマスクされてそれほどかゆいとは感じないかもしれません。夕刻から緊張が緩んでくるとかゆみをはっきり感じるようになり、入浴で心身が暖まってリラックスした後にはかゆみがいっそう増強、さらに就寝後にはかゆみだけが脳に感じられて、安眠・熟睡のさまたげとなります。就寝中にひっかいて掻破痕となると、もはやスキンケアだけでは不十分な状況です。かゆみ止めの内服剤や抗炎症剤の外用が有効となります。
- かゆみ止めには種々の抗ヒスタミン剤や抗アレルギー剤が単独あるいは複合的に応用されます。その薬理作用の効果発現には不都合な副作用が発揮されることもあり、医師の指導のもとでの内服が安全でしょう。内服でも不十分な場合には、真皮に炎症が隠れていることが推測され、弱~中レベルのステロイド外用剤の数日間使用で、単純なスキンケアに戻ることがしばしば経験されます。
5 医療機関への受診
自己対策での効果に満足不十分であれば、積極的な医療機関への受診が求められるでしょう。第一選択は、アクセスしやすい医療機関です。また受診できない事情がある場合には、往診の依頼も選択肢です。「痛いのは我慢できるが、かゆいのは我慢できない」との訴えはよく耳にします。かゆみで脳中枢が過敏状態になる前に早めの受診を心がけましょう。