知っておきたい病気
2019年9月 不正性器出血
永井レディースクリニック
永井 理博
外来患者さんが「生理不順である」、「生理がおかしい」、「生理が止まらない」、「生理の量が少なかった」等の訴えで来院されることがよくあります。性器出血があった場合、それが生理(注1)なのかそうでない出血なのかを判断する必要があります。生理らしい出血の条件として
- 前の月の生理から考えていい時期(人によって異なりますが)に起る
- 出血の量がいつもくらいある(いつもの半分以下、倍以上だと生理とは考えない)
- 2日目~3日目が多くて、だんだん少なくなっていき7日~10日以内で止まる。
1から3の条件に当てはまれば生理と考え、それ以外は全部不正性器出血と考えます。たとえば最初の7日くらいはいつもの生理のようにあってもその後ずっと止まらなければそこからは不正性器出血と考えます。
不正性器出血があった場合、考えなくてはいけない原因が3つあります。まず一つ目はホルモンのバランスが悪くて出血する場合、言い換えると卵巣機能が悪く卵巣から出る女性ホルモン(卵胞ホルモンと黄体ホルモン)が十分でないために起る出血です。機能性子宮出血と言われるものです。二つ目は何か出血する病気ができている場合です。器質性疾患と言われるもので、例えば子宮がん(子宮頚がんと子宮体がん)、子宮腟部びらん、子宮頚管ポリープ、子宮内感染症(子宮頚管炎と子宮内膜炎)、子宮筋腫等です。三つ目は妊娠していて、それに伴う出血です。切迫流産と言われる流産しかけの状態や流産後、子宮外妊娠、俗にぶどう児と言われる胞状奇胎です。
一つ目の機能性子宮出血が頻度的には最も多い原因です。もともと卵巣から出るホルモンによって子宮内膜(子宮の一番内の膜)が厚くなるのでホルモンが十分出ている間は出血が起きませんが、ホルモンが出なくなると厚くなった子宮内膜が剥げて落ちて生理となります。(ホルモン消退性出血と言います)このホルモンの出が途中で下がると内膜の表面から少しずつ剥げて落ちて出血をします。また排卵がない場合卵胞ホルモンによって内膜が非常に厚くなり内膜表面に酸素、栄養がいかなくなり剥げて落ちて出血(破綻性出血)をきたします。
診療方針は、妊娠可能な若年者ではまず妊娠の有無を考えます。患者さんが「妊娠していません」と訴えても最近2~3か月以内に性交渉がある場合、最終月経と思っている出血が実は不正性器出血であったということもあります。妊娠検査をして妊娠でない場合は二つ目の器質性疾患を考えます。この中で最も大切な病気は子宮がんですので、最近子宮がんの検査をうけていない場合は子宮がんの検査を行います。特に40歳以上の場合は子宮体がんの可能性が高くなるため子宮頚がんと子宮体がんの両方の検査をします。10歳代~20歳代は性感染症による子宮頚管炎を疑う必要があるため、患者さんにその可能性を聞き、はっきりしない場合は性感染症(クラミジア、淋菌)の検査をします。これらの可能性が低い場合、一つ目の機能性子宮出血と診断し出血を止めるか、出血量が少なければしばらく様子を見るかを選択していただきます。閉経後の高齢者では頻度的には老人性腟炎による出血が多いのですが、やはり子宮頚がんと子宮体がんの検査をします。
閉経直前では卵巣機能が悪くなるため、不正性器出血を起こすことが多くなります。この年代では子宮がんの発生も多いため、基本的な姿勢としては
- 1年に1回は子宮がんの検査を受けてがんでないことを確認しておく
- 出血の量が少ない場合はそのまま様子をみて、出血の量が多くて貧血になりそうだったり出血がずっと続いて困る場合のみ医療機関を受診して止めてもらう方針が良いと思います。
(注1)医学的には月経と言いますが、この稿では皆さんになじみのある生理という言葉を使っています。