一般社団法人宇部市医師会

知っておきたい病気

2019年10月 骨粗鬆症について

たはら整形外科
多原 哲治

はじめに

骨粗鬆症は、今や国民病と思われます。骨粗鬆症専門医は骨粗鬆症性骨折(骨粗鬆症が原因で起こる骨折)が高齢者の生命予後に大きな影響を及ぼすことから「骨卒中」と言う名称を提言されています。確かに、高齢化社会となった今では、癌や心臓病、脳卒中を免れても、骨粗鬆症性骨折で要介護や寝たきりの状態となり健全な老後が送れなくなっているのが現状です。それゆえ、骨粗鬆症の予防と治療が非常に大切だと考えます。

骨粗鬆症とは

現在、わが国では総人口の約1割、1280万人(女性980万人、男性300万人)の骨粗鬆症の患者が存在すると報告されています。女性に多く、男性の3.3倍です。50歳代の女性では4人に1人、70歳代は2人に1人、80歳以上では大半が骨粗鬆症です。骨粗鬆症とは骨の強度が低下し骨が折れやすくなった状態です。これは、饅頭のあんこ(骨で言うと海綿骨です)が古くなるとスカスカになり、次第に皮(骨皮質)まで傷んで朽ちて行く状態に似ています。健康な骨は70%がミネラルで、大半がカルシウムです。残りの30%はコラーゲンで出来ています。コラーゲン繊維が骨の中を無数に走り、そのすき間をカルシウムが埋めて骨は出来ています。骨を鉄筋コンクリートのビルに例えると、カルシウムはコンクリートで、コラーゲンは鉄筋にあたります。したがって、カルシウムとコラーゲンが減ると骨の強度は弱くなります。進行すると、何の原因もないのに「いつの間にか骨折」を発生したり、全身の骨が折れやすくなります。これが骨粗鬆症の怖いところです。骨粗鬆症性骨折は脊椎や大腿骨、上腕骨、前腕骨、肋骨、下腿骨などに高頻度に発生します。特に脊椎椎体骨折は70歳代で25%、80歳代で40%に認められ、まれに骨折の破片で神経が障害され下肢麻痺を発生させることもあります。さらに大腿骨近位部骨折は2017年に約20万人が発生し、骨折1年以内に20%が死亡し、30%が寝たきりになられると報告されています。2020年には24万人、2040年には32万人の発生が予測されています。

原因について

骨粗鬆症は、原発性骨粗鬆症と続発性骨粗鬆症に分かれますが、大半は原発性骨粗鬆症です。原発性骨粗鬆症とは遺伝的素因と加齢に生活習慣が加わって発生するものです。老人性骨粗鬆症や閉経後骨粗鬆症、妊娠後骨粗鬆症、男性骨粗鬆症に分類されます。最近では、男性の骨粗鬆症が増加傾向にあります。続発性骨粗鬆症とは他の病気や薬物などが原因となって発生するものです。原因として内分泌疾患(副甲状腺機能亢進症や甲状腺機能亢進症、クッシング症候群、性腺機能不全など)、薬物障害(ステロイド薬や性ホルモン薬、ワルファリン、メトトレキサート、ヘパリンなど)、栄養障害(胃手術後や神経性食欲不振症、吸収不良性症候群など)、運動機能低下(麻痺や長期臥床、廃用症候群など)、先天性疾患(骨形成不全症やマルファン症候群)などがあります。さらに糖尿病や関節リウマチ、アルコール依存症、慢性腎臓病、肺疾患、癌患者さんにも発生しやすいので要注意です。

検査について

健康な骨は70%がカルシウムで30%がコラーゲンで出来ていると言いました。よって、骨の強度はカルシウムとコラーゲンを測定すれば分かります。カルシウムは骨密度測定器で評価されます。しかし、コラーゲンの評価については現在確立された検査法はありません。したがって、骨粗鬆症の診断や治療薬の選択および治療効果の判定には、従来のレントゲンに加え、骨密度と骨代謝マーカーで総合的に評価されています。骨密度測定は、日本骨粗鬆症学会や日本骨代謝学会ではデキサ(DXA)法が推奨されています。デキサ法とは、骨折の頻度が高い腰椎(腰の骨)と、骨折すると寝たきりになる可能性の高い大腿骨近位部(脚の付け根)で同時に骨密度を測定する検査です。判定の際、腰では、加齢による変形や過去に起こった椎体骨折、腹部大動脈の石灰化などの存在に注意し、大腿骨近位部では、股関節のポジションに注意しないと大きな測定誤差を生じますので慎重な評価が必要です。なお、その他の測定方法として、手で測定するMD法、踵(かかと)で測定する超音波法が一般検診として利用されていますが、治療薬の効果判定には適さないと思われます。さらに、骨代謝マーカーについてお話しします。骨代謝マーカーには、骨が溶ける際に血液に発生する物質(骨吸収マーカー)と骨が作られる際に発生する物質(骨形成マーカー)があります。破骨細胞(骨を溶かす細胞)や骨芽細胞(骨を作る細胞)の状態やバランスを評価し、骨折の危険度や治療薬の選択、治療効果の判定に用いられています。現在、これらの骨密度と骨代謝マーカーによって骨粗鬆症の状態を評価しています。一般的に検診の対象になる方は、閉経後や高齢者の女性、カルシウム摂取不足の方、若い頃に過激なダイエットをされた方、痩せている方、運動不足で筋肉の発達の悪い方、女性ホルモンのアンバランスな方、骨粗鬆症の家族のいる方、ステロイドを服用している方、続発性骨粗鬆症の原因になる疾患を有する方です。

治療について

骨粗鬆症の究極的な治療目的は、全身の骨折、特に脊椎椎体骨折や大腿骨近位部骨折を発生させない事にあります。その予防と治療に食事療法や運動療法、薬物療法があります。食事療法では、骨の材料となるカルシウムとビタミンDに注意を払って下さい。日本人の1日のカルシウム摂取量は全年齢平均で男性は550mg、女性は528mgと報告されています。明らかに他国と比べ少ないようです。これは飲料水(日本の水はカルシウム量の少ない軟水のため)、や土壌に関係するとも言われています。カルシウムは1日に800~1000mg必要です。但し、カルシウムを摂取するだけでは骨は出来ません。骨を作るにはビタミンDが必要です。ビタミンDは食物摂取や紫外線を浴びた皮膚から作られます。このビタミンDは肝臓や腎臓で活性化され、活性型ビタミンD3となり腸でのカルシウム吸収を高め、腎臓でカルシウムの再吸収を促し、骨の石灰化や骨芽細胞の成熟に関わります。したがって、ビタミンDが不足すると、カルシウム吸収不足となり骨粗鬆症の誘因となります。体内のビタミンDの充足度は血液検査で判断できます。日本人の大半は不足しております。次に、運動療法です。全身のストレッチや筋力強化訓練、有酸素運動を行うことで、骨は刺激され骨芽細胞が活性化され骨代謝が活発になり骨の形成を促してくれます。また、転倒予防のため片脚立ちやバランス能力を改善するロコトレ(ロコモーショントレーニング)を行うことをお勧めします。最も重要な治療は薬物療法です。骨の新陳代謝は約3~5ヶ月のクールで骨吸収と骨形成を繰り返しています。3~4年間で100%の骨が生まれ変わると言われています。最初に破骨細胞が古くなった骨のカルシウムとコラーゲンを酸や酵素で溶かし、骨芽細胞がコラーゲンを作り、血液から運ばれてきたカルシウムと付着して新しい骨を作り出します。このバランスが崩れると骨粗鬆症になります。したがって、薬物療法には骨吸収抑制剤(骨が溶けるのを抑える薬)と骨形成促進剤(骨を作るのを促す薬)と骨代謝調整剤(骨の吸収と形成を調整する薬)とに分類されます。骨吸収抑制剤にはビスホスホネート薬や選択的エストロゲン受容体作動薬、デノスマブ、カルシトニン薬、女性ホルモン薬などがあります。骨形成促進剤には副甲状腺ホルモン薬があります。骨代謝調整剤には活性型ビタミンD3薬やカルシウム薬などがあります。また、最も新しい治療薬として骨吸収抑制作用と骨形成促進作用を有する抗スクレロスチン抗体製剤がありますが、心血管障害の報告もありますので、慎重に適応を検討する必要があると思います。よく話題になるビスホスホネート製剤の副作用として抜歯後の顎骨壊死(あごの骨の感染症、顎骨骨髄炎)がありますが、その発生は自然発生率とほぼ同等(0.001%~0.01%)と報告されていますので、必要以上に心配しないで下さい。予防が最も大切です。歯や歯茎をよく磨き、口腔内を常に清潔にしておきましょう。(詳細については、宇部市医師会ホームページの宇部市医科歯科連携研究会の「骨粗鬆症マネージャーがゆく!」をご覧下さい)

最後に

骨粗鬆症の治療は、的確な診断のもとに個々の患者さんにあった最適な治療薬を処方して頂き、定期的な検査で治療評価を受けることが大切だと考えます。