知っておきたい病気
2020年2月 機能性ディスペプシア
ふじもと内科胃腸科医院
藤本 憲史
皆さんは機能性ディスペプシアという言葉ご存知でしょうか?あまり聞き慣れない病名だと思います。しかしこれは多くの方で経験があるのではないかと思います。例えば胃の痛みや胃もたれが続いて病院に行ったら、「慢性胃炎ですね」と言われたことはありませんか?そうです。昔で言う「慢性胃炎」がこの機能性ディスペプシア(functional dyspepsia:以下FD)のことなのです。
FDとは「症状の原因となる明らかな異常がないにもかかわらず、慢性的に心窩部(みぞおち)の痛みや胃もたれなどの心窩部を中心とする腹部症状を呈する疾患」とされています。簡単に言うと、検査で胃や十二指腸に異常がないけれども、胃痛や胃もたれが続く状態と考えてもらったら良いかと思います。ただし、食あたりや胃腸炎など一過性の場合は当てはまりませんのでご注意ください。
主なFDの症状としては、食後の胃もたれ感・膨満感、早期満腹感(すぐお腹いっぱいになる)、心窩部痛、心窩部灼熱感などの上腹部症状です。ではなぜそのような状態になってしまうのでしょうか。FDの病態には様々な要因が考えられています。胃適応性弛緩障害(食事をした時に胃があまり拡がってくれない)、胃排泄障害(胃で消化されたものを十二指腸に送る力が弱くなっている)、内蔵知覚過敏(胃の伸び縮や冷たいものなどの刺激、または十二指腸への酸や脂肪の流入によって知覚過敏を引き起こしたりする)等が関連していると言われています。また、ストレスや胃酸分泌の異常、ヘリコバクター・ピロリ菌、遺伝的要因、心理的要因(特に不安や虐待など)、感染性腸炎の既往、アルコールや喫煙などの生活習慣、高脂肪食、胃の形の異常、なども関与していると言われています。
では日本人のどれくらいの人がFDになっているかというと、健診受診者の約10%の方で認められると言われており、さらに上腹部症状を訴えて病院を受診した患者さんの実に約50%の方がFDと診断されています。従って、かなり身近な病気であると言えます。
その診断方法についてですが、先に述べたように患者さんの背景や上腹部症状についての問診がまず大事になります。そしてやはり器質的な胃・十二指腸疾患(炎症や潰瘍、がんなど)の除外が重要になりますので、内視鏡検査は必要かと考えます。またさらに必要に応じて、他の臓器の疾患を除外するために、血液検査や超音波検査、CT検査などを組み合わせて診断することもあります。最終的に上腹部症状はあるけれどもそれに見合う器質的疾患がなさそうだと判断して初めてFDと診断されます。ただし、100%完全に他の疾患を除外することは困難ですので、治療を行いながらその効果をみて、もし効きが良くなければ、再度検査をするということもあるのでご了承ください。
治療に関しては、前述通りFDの要因は様々で、それらが複雑に絡み合って症状が出てくることがあります。従って、これという治療法はありません。問診で患者さんの生活習慣やストレス、心理状態、上腹部症状を丁寧に聞き取り、それに見合う治療法を探っていくことになります。その中でよく用いられるのが薬物療法で、酸分泌抑制薬や消化管運動機能改善薬に有効性が示されており、また漢方薬や抗うつ薬・抗不安薬なども一部有効性が示されていますので、症状に合わせて選択していくことになると思います。またヘリコバクター・ピロリ菌がいる方は除菌治療で改善することがあります。もちろん、食事療法やアルコール制限、禁煙など生活習慣指導も同時に行い、心理的要因が強い方には心療内科や精神科への受診を勧めることもあります。いずれにしても、お医者さんとじっくり話し合い良好な関係を築きながら治療を進めていくことが大切だと考えています。
最後に、FDは重篤な死に直結するような病気ではないにしても、長い間患っていると生活の質が低下していきます。また、別の怖い病気が隠れている場合もありますので、心窩部痛や胃もたれなどが続いているなぁと思われたら、一度お近くの消化器科にご相談されるのが良いかと考えます。