知っておきたい病気
2020年12月 帯状疱疹について
いちみや皮ふ科・形成外科
一宮 誠
帯状疱疹というのは、皮膚に痛みを伴った赤い発疹が体の肋間神経領域や顔面の三叉神経領域などに出て、それが帯状に拡がりながら2~3日のうちに水疱に変わり、さらに痛みを増し、ひどい時には発熱も伴うこともあるウイルス性の疾患です.
その原因となるウイルスは、水痘・帯状疱疹ウイルスというウイルスです。くちびるなどにできる単純ヘルペスを混同されることがありますが、全く別のウイルスです。帯状疱疹は、子供の時に罹患する水ぼうそうの原因ウイルスですが、治った後もウイルスは長い間体内に潜んでいて、普段は自分の免疫力によって抑えられています。
しかし、このウイルスは頭がいいのかずるいのか、免疫力の及びにくい神経節という神経細胞組織の中に隠れてしまうことが多々あります.体性神経節とよばれる神経細胞の中に普段は潜んでいて、悪さをせずにそのまま一生神経細胞に潜んでいることもあれば、年をとったり、身体が疲れたり、病気になり抵抗力が落ちてきた時にウイルスが再度増殖し、神経に沿って移動、皮膚に到達して帯状疱疹を再発します。日本人成人の9割が水痘・帯状疱疹ウイルスを体内に持っているといわれています。
診断については、発疹が出る前に神経痛様の痛みや灼熱感が数日間ほど続くことがあり、整形外科や内科を受診して肋間神経痛、三叉神経痛、坐骨神経痛などと診断されることがあります.神経痛が出現後、神経支配領域に沿って発疹が出現するので、帯状に病変が認められます。帯状に、典型的な小さな水疱が出現すれば診断は容易ですが、なるべく早いうちに抗ウイルス剤による治療が開始したほうが、後述する帯状疱疹後神経痛などの合併症が少ないと思われます.症状をみれば診断は可能ですが、非典型例の診断には、水痘・帯状疱疹ウイルスの抗体価の測定などを行うこともあります。身体の抵抗力が低下することによってウイルスが再燃して生じるので、重症例や治りにくい場合は、体の中に癌などがないか検査したり、もともと持病で、膠原病、糖尿病、肝臓病や腎臓病などが悪化していないかなどの全身のチェックが必要です.
治療としては、まず抗ウイルス剤を出来るだけ早期に点滴注射あるいは経口剤にて5日から約1週間投与することです.重症の場合は点滴治療が望ましいですが、入院が必要です。出来るだけ早期に治療を開始し、神経の損傷を最小限にくい止めることが帯状疱疹後神経痛や顔面神経麻痺などの合併症の予防に大切です。また患部を保護して清潔に保つことは、二次的な感染を防ぎ、痛みの軽減に役立ち、傷跡の発生の軽減にも役立ちます.さらに痛みに対する治療ですが、患者さん自身ができることとしては、決して患部を冷やさずに、入浴などで温めると痛みが和らぎます。一般的には鎮痛剤の内服となりますが、難治性の場合は中枢神経作動薬の内服や神経ブロックを行うことがあります.
神経ブロックには脊髄の外側にある硬膜外腔という場所にプラスチックの管を入れて局所麻酔を注入する持続硬膜外ブロックと首の前の付け根にある交感神経の集まった部分を局所麻酔薬で麻痺させる星状神経節ブロックがあります.痛みが劇的に治まるほか、交感神経の麻痺により血管が拡張し血流が良くなるため、神経の障害が軽減し、帯状疱疹後神経痛などの合併症の発生も減らせられる可能性があるといわれています。神経ブロックはペインクリニックで行われることが多いです。また発症から6ヶ月を超えて帯状疱疹後神経痛が持続する場合は、非常に難治性となります。
帯状疱疹は他の人にうつりますか?と不安がられる方も多いです。水ぼうそうの場合は、全身にウイルスが増殖しており、水ぼうそうの患者さんと会話するとウイルスに接触します。一方、帯状疱疹では、水疱の中にはウイルスがたくさん増殖していますが、全身には存在しないので会話程度ではウイルスに接触しません。ただし、重症型である全身に発疹が散布する汎発型帯状疱疹では、全身にウイルスが増殖しており、会話するとウイルスに接触します。以前、水ぼうそうにかかった人は、感染しません。しかし、水ぼうそうにかかったことのない小児は感染することがあります。
また、まれにですが、帯状疱疹になると合併症が生じることがあります。水疱は10日から1か月かけてかさぶたになり、新しい皮膚ができます。かさぶたがとれて多少の水疱の跡が残ることもありますが、大体は跡もあまり目立たず治ります.この頃にはほとんど痛みは気にならなくなることが多いのですが、年齢が高くなるほど痛みが残りやすくなり、特に50から60歳以上の方では約2割の方に帯状疱疹後神経痛として3ヶ月以上、人によっては一生痛みが残ることがあります.また水疱の出現する場所によっては、例えば眼の周囲に水疱が出現すると角膜炎やぶどう膜炎を併発し、場合によっては視力低下や失明を生じたり、外耳道の中に出現するとハント症候群といって難治性の顔面神経麻痺を起こし、食事がとりにくくなったり、眼が閉じにくくなることがありますので要注意です.
帯状疱疹を予防する方法ですが、最近ではワクチン接種が施行されています。摂種適応年齢は50歳以上からです。水ぼうそうにかかったことがある人は、すでに水痘・帯状疱疹ウイルスに対する免疫がありますが、年齢とともに弱まってしまうために、ワクチン接種をすることで発症や重症化を抑えることができます。ただし、ワクチン接種をしても完全に防ぐことはできず、ワクチンの効果期間にも限りがあります。しかし最も大切なのは食事や睡眠をきちんととる、疲れたら休息する、適度な運動をするなど、日頃からの体調管理を心がけ、免疫力を低下させないことです。