一般社団法人宇部市医師会

知っておきたい病気

2025年3月 食物蛋白誘発胃腸炎症候群(FPIES)について

松岡小児科
松岡  尚

 食物蛋白誘発胃腸炎症候群(Food Protein-Induced Enterocolitis Syndrome ; FPIES エフパイスと読みます)は、特定の食べ物が原因で主に乳幼児に発症しますが、成人にも発症することのある胃腸の炎症性疾患です。アレルギー疾患の一種ですが、一般的な食物アレルギーとは異なり、免疫系の即時反応(じんましん、呼吸困難など)ではなく、非即時型の消化器症状を引き起こします。この病気は比較的最近知られるようになりましたが、近年増えてきています。FPIESという病名は1998年頃から使用され、2012年から食物アレルギー診断ガイドラインで扱われるようになり、2018年に厚生労働省研究班によるガイドラインが公開されました。

 FPIESの症状は原因となる食物を摂取して、1〜4時間後に頻回の嘔吐が出現し、その後しばしば下痢を伴います。血便になることもあります。症状が嘔吐、下痢のため胃腸炎と紛らわしいのですが、胃腸炎は症状が数日間続きますが、FPIESは数時間で症状がなくなります。FPIESはアレルギーの病気なので原因となる食物を摂取すると繰り返し嘔吐します。原因となる食物は鶏卵(特に卵黄)が最も多く、次に牛乳、以下大豆、小麦、魚類などです。

 診断は、1)原因と疑う食物を除去して症状が改善すること(食物除去試験)、2)原因と疑う食物を再度開始すると症状が出現すること(食物負荷試験)、3)他の疾患にあてはまらないこと、を確認して診断します。小児では嘔吐、下痢、血便や、体重増加不良となる疾患が色々とあるので、他の疾患がないか十分確認することが大事です。

 治療は急性期には胃腸炎の治療と同じで、経口補水や場合によっては点滴を行います。診断がついたら長期管理にうつります。即時型の食物アレルギーの場合は閾値(症状が出ないギリギリの量)を確認して、症状の出ない範囲で積極的に摂取を進め免疫寛容(アレルギーの症状が出なくなること)を待ちますが、FPIESの場合は微量摂取を続けても免疫寛容を誘導する根拠が乏しいため、完全除去を行うのが一般的です。牛乳が原因の場合は母乳か加水分解乳、アミノ酸乳にします。

 ではFPIESは治るのでしょうか? 一般的には予後は良好と考えられています。原因食物によって時期は変わりますが、鶏卵でおよそ18〜63ヶ月後に寛解(症状が出なくなること)しますし、牛乳では2歳までに50%が、3歳までに大半が寛解することが多いです。魚類は寛解まで時間がかかるようです。