知っておきたい病気
2022年12月 尋常性乾癬
今村皮膚科形成外科
今村 太一
尋常性乾癬(じんじょうせいかんせん)という病気を聞いたことがあるでしょうか。現在皮膚科のなかでも様々なことが分かってきており毎年毎年新しい最先端の治療薬が開発されている病気です。
どのようなものか言うと、全身何処にでも分厚い銀白色の皮がはげる赤い湿疹が次々に出来る病気です。場合によっては爪の変形が起こったり、関節痛が出てきたりと色々な症状をおこします。原因としてはある種の免疫の暴走が起こってしまい皮膚が攻撃されることにより必要以上に皮が成長してしまうために起こるとされ、食べ物やアレルギーや内臓の病気とは関係がありません。よく名前が「かんせん」なので人にうつす=感染させてしまうのだろうと思われている方も多いですが、人にうつしてしまうこともありません。では何故免疫の暴走が起きるのか?これは残念ながらまだ解明されていません。なりやすい遺伝子があるとは言われていますが、遺伝子だけでこの病気になるわけではなく、様々な生活の影響を受けて起こすと言われており非常に複雑な病気です。人口の0.1%程度の人がかかると考えられています。
ここで問題になるのが、まだ完全に解明されていないというところです。「たくさんの病院に見てもらい毎回乾癬と言われるが治らない」と言われ受診される方もいらっしゃいます。ここで治ると治らないというところに患者さんと我々医療者との間にイメージのギャップがあるものと思われます。患者さんとしては、病院や薬の世話にならず全く何もしなくてもガサガサした湿疹が出ないことが治ったと言えると思われると考えます。しかしこの病気の原因である免疫の暴走そのものがなぜ起こるかわかっていないため、免疫の暴走を根元から止めるという手段が人類にまだありません。そういう意味では治らないということになるかもしれません。しかし我々皮膚科医の認識としては何らかの治療を続けると多くの人は湿疹がほとんど出ない状態を維持したり、出てもすぐに消える状態にできる。つまり病院で治療を続けている間は病気にあまり悩まない状態にできる=治る(寛解:かんかい)と考えています。そう聞くと、なんだやっぱり治らないんじゃないかとガッカリする方もいるかもしれません。ですが、今までは治療を受け続けても症状がとても強く「治らない」人も多かったのですが、昨今ではそのような人も「治せる」治療が出てきているのも事実です。そこで乾癬の治療なのですが、大きく分けると2つに分かれます。出てしまった湿疹を消す、または免疫の暴走の邪魔をして湿疹を出ないようにするというものです。出てしまったものを消すためには塗り薬や紫外線療法などがあります。昔ながらの治療ですが最近は1日1回ですむものやスプレー剤など、効果がよく塗りやすいものが増えています。現在次々に新薬が作られているものが、湿疹を出ないようにする治療です。これは起こってしまっている免疫の暴走を途中でブロックして湿疹そのものが出ないようにする治療となり、生物学的製剤と言われる注射薬やPDE4阻害剤、JAK阻害剤、TYK2阻害剤といった飲み薬になります。効果は今までの治療に比べて良く、様々な治療があるため多くの人で自分に合ったものを見つけることができます。しかし、ある程度症状が強い人でないと使えない、そもそもの定価が高い(これは国が決めているものなので我々ではどうしようもありません)ため高額療養費制度(収入に応じて月の医療費の上限を決める)を利用しないといけない、多くの薬は大きい病院でないと処方しにくい等、ややこしいところもありますが従来の治療で良くならなかった人を劇的に良くしてくれることがあります。
しかし、結局治療し続けないといけないならもういいや、と考えられる人もおられるかもしれません。ですが、この乾癬はある種の全身の病気ではないかということが分かってきています。乾癬のコントロールの状況が悪いと肥満症や糖尿病のリスクが高いとされ、最終的には心筋梗塞に至ることもあると言われます。また、関節痛がある乾癬は放置すると二度と戻らない関節の破壊が起こることもあります。やはり、我々皮膚科からしますと薬なしで治らないならもうよいと言わずに何か治療を受けていただけると、と思います。多くの人にとって手間暇をかけさえすれば自分に合う良い治療が見つかる病気になりつつあります。更に山口県には乾癬友の会山口支部という患者会も活発に活動しておられますので、医療者には相談しにくい内容も相談しやすい環境にあると思います。いずれにせよ、何かお困りの際は皮膚科受診をお考えいただけますと幸いです。