一般社団法人宇部市医師会

知っておきたい病気

2023年1月 アトピー性皮膚炎と新しい治療

今村皮膚科形成外科
今村 太一

アトピー性皮膚炎、この名前を皆さん一回は聞いたことがあるのではないでしょうか。では、アトピーはどのような病気かというと中々難しく、皮膚科学会での定義を大雑把に言い換えると「かゆみのある湿疹が、長い間良くなったり悪くなったりを繰り返す病気」です。ではアトピーは一体誰に多い病気でしょう。多くの人は子供だけの病気と思ってはいないでしょうか。確かにアトピーの患者さんの多くは若者です。ところが実際に日本で調べてみると、なんと30代の8.3%, 40台の4.1%, 5,60代の2.5%がアトピーであるということが言われています。数は少ないのですがアトピーは子供だけではなく大人でも起こりえる病気なんですね。
それではアトピーの治療としては何があるのでしょうか。基本はステロイドの塗り薬になります。これは世界各国で一致しています。最近は減りましたが、以前はマスコミによるステロイドの根拠のない大バッシングが行われたため、ステロイドというだけで顔をしかめる方もいらっしゃいました。そもそもステロイドとは何なのでしょう。それは人間の体の腫れをとるために人体内で常に合成されているホルモンです。この文を読んでいる貴方の体の中でも今この瞬間にステロイドが作られ続けています。考え方次第ですが馬油なんかの他の動植物を利用した物なんかよりよっぽど「ナチュラル」です。だって人間が体内で作り出しているホルモンですから。さて、そのステロイドの塗り薬を正しい塗り方、必要な強さ、量、回数で塗ることにより多くのアトピーの人の湿疹は抑えることができると言われます、しかし、残念ながらステロイドの塗り薬だけでは湿疹が抑え込めない方も多いのも事実です。これまでは塗り薬で症状が落ち着かないときはステロイドや免疫抑制剤の飲み薬等を行うことはありましたが副作用も多く、ある意味一時しのぎに近い感覚でした。しかし、ここ数年で次々に新しい治療法が使えるようになりました。
1つは新しい塗り薬です。20年程前にタクロリムスという免疫を抑える薬が発売されています。これは塗り始めに刺激感があるというのが欠点ですが、大きな副作用が少ないというのが利点でした。この1年で更にデルゴシチニブ、ジファミラストという免疫を調整する塗り薬が発売されました。この2つはタクロリムスのような刺激感もなくより使いやすいかもしません。そしてタクロリムス、デルゴシチニブ、ジファミラストの3つはいずれもステロイドとはそれぞれ違う作用から腫れを抑えてくれるため、単純に言うとかつてはステロイドしかなかった塗り薬が今は4種類から選択できるとも言えます。ただし残念ながら新しい3つの塗り薬はステロイドと比べて即効性がなく、腫れを抑え込む強さは少し強いステロイドと同じくらいと言われています。と言うことは激しい湿疹を抑え込むには力不足の可能性が強く、症状が強いときはやはり未だにまずは強めのステロイドとなります。強い湿疹が落ち着いた後の良い状態を維持するために使用するのがメインの使い方になるのかもしれません。ですが、ステロイドの効果が今一つだった人たちの中には、少ないながらもこの3つの薬が大変良く効いてくれることがあります。誰が良く効くのか、これはまだわかっていないのですがステロイドだけでは湿疹が落ち着かない人には使ってみる価値はあるかもしれません。
次に半年通常の治療をしても症状が治らないという人に生物学的製剤と言う注射薬とJAK阻害薬という飲み薬が出てきました。注射薬は痒みと湿疹を治すデュピルマブと、痒みを治すネモリズマブの2つがあります。いずれも副作用が少なく、効果が高い(特にデュピルマブ)ことが特徴です。前者は2週に1回注射が必要ですが、数回使用して慣れてきたら御自身で注射をしてもらってよく、そうすると3ヶ月分ほど薬を処方することができます(つまり病院に来るのは3カ月に1回)。後者は4週間に1回注射をするだけでよいのですが、まだ御自宅で打つことは出来ず必ず病院で打たねばなりません。また湿疹を抑える効果はデュピルマブより弱いとされます。飲み薬はJAK阻害薬という種類の薬で、現在3種類発売されており、注射のデュピルマブより効果が弱いものも、効果が強いものもあります。飲むだけなので注射よりハードルが低いかもしれませんが、残念ながら様々な副作用がありレントゲンを含めた色々な検査がいるため大きな病院でないと処方するのが難しいという欠点があります。新しい注射薬と飲み薬は今までの治療で良くならなかった人の症状を劇的に良くしてくれることがある優秀な薬なのですが、残念ながら定価が高いという大きな欠点があります。
ですが、いずれの治療も効果は良く、今まで治らなかったアトピーを良くすることが出来るようになりました。興味があるならば是非皮膚科で御相談ください。