一般社団法人宇部市医師会

知っておきたい病気

2025年7月 その足のむくみ、もしかしたら危険信号? 知っておきたい深部静脈血栓症

宇部中央病院
西村 滋彦

深部静脈血栓症とは、体の深い部分を走行する静脈内に血栓(血のかたまり)ができてしまう病気で、その多くは下肢や骨盤内に発症します。静脈は血液を心臓に戻す役割を持つ血管で、手足の筋肉が収縮することで血液が動きます。しかし、長時間動かさないでいると血液の流れが滞り、血栓ができることがあるのです。

深部静脈血栓症が危険な理由

静脈内にできた血栓が血管の壁からはがれて、血流に乗って肺まで到達すると、肺動脈を詰まらせてしまう「肺血栓塞栓症」という重篤な合併症を引き起こす可能性があります。肺血栓塞栓症は突然の胸の痛みや息切れ、呼吸困難、失神などを引き起こし、最悪の場合、命に関わることもあります。

血栓ができる原因とリスク因子
静脈内に血栓が生じる原因としては、以下の3つの要因が関係するとされています。
① 血流のうっ滞:長時間同じ体勢でいること(例:飛行機や新幹線での移動、デスクワーク、手術後の寝たきりなど)、運動不足などにより、足の静脈の血流が悪くなると、血栓ができやすくなります。
② 血管壁の損傷:手術や外傷、炎症などによって血管の内壁が傷つくと、そこに血小板が集まりやすくなり、血栓形成のきっかけとなります。
③ 血液が固まりやすい状態:悪性腫瘍などの病気、妊娠、出産後、経口避妊薬の使用、脱水、遺伝的な要因などにより、血液が通常よりも固まりやすい状態になると、血栓ができやすくなります。

深部静脈血栓症の症状

一般的な症状は、片方の足の突然の腫れや痛みです。ふくらはぎや太ももに起こることが多く、押すと痛んだり、皮膚が赤くなったり、熱を持ったりすることもあります。また、無症状の場合や初期症状が軽微な場合もあり、気づかないうちに重症化することもあります。

早期の発見と治療が大切

足の腫れや痛みなどの症状に気づいたら、ためらわずに医療機関を受診してください。診断のために、血液検査(Dダイマー測定など)や血管を観察する超音波検査、造影剤を用いたCT検査などが行われます。
治療の基本は、血液をサラサラにして固まりにくくする抗凝固薬による薬物療法です。これにより、血栓の拡大を防ぎ、肺血栓塞栓症のリスクを減らすことができます。場合によっては、血栓溶解療法(血栓を溶かす薬を使用)、下大静脈フィルター留置術(肺血栓塞栓症を予防するためのフィルターを血管内に設置する)などが行われることもあります。

予防のためにできること

深部静脈血栓症を予防するためには、日頃から以下の点に注意することが大切です。
• 長時間の同じ体勢を避ける: デスクワーク中や長距離移動中には、意識的に足を動かしたり、ストレッチをしたりしましょう。
• 水分をこまめに摂取する: 脱水状態は血液を濃縮させ、血栓を作りやすくします。特に長時間の移動時や暑い日は、こまめな水分補給を心がけましょう。
• 適度な運動: ウォーキングなどの軽い運動は、足の血行を促進し、静脈うっ滞を防ぎます。
• 弾性ストッキングの着用: 特に長時間座りっぱなしや立ちっぱなしの仕事の方、妊娠中の方などは、医師に相談の上、弾性ストッキングの着用を検討しましょう。
• リスク因子の管理: 肥満、喫煙、特定の病気などは深部静脈血栓症のリスクを高めます。生活習慣の改善や基礎疾患の適切な管理が重要です。

最後に

深部静脈血栓症は、早期に発見し適切な治療を行えば、重篤な合併症を防ぐことができる病気です。「たかが足のむくみ」と安易に考えず、気になる症状があれば、早めに専門医に相談してください。