一般社団法人宇部市医師会

知っておきたい病気

2025年4月 糖尿病治療中にかぜをひいたら

きわなみ内科クリニック
畠中 諒子

 「風邪をひいたら糖尿病の薬はどうしたらいいの?」
 「食事がたべられないときはインスリンを打たなくてもいいの?」
 コロナ渦の昨今、このような質問を患者から受ける機会が少なからずあります。降圧薬は基本的には継続し(発熱や下痢嘔吐、食欲不振などにより脱水状態を呈している場合は減量・休薬を検討。)、脂質異常症治療薬については食事が摂取できないときは休薬で対応されていることが多いように感じますが、経口血糖降下薬やインスリンについても継続か休薬 の二択で良いかと問われれば、一概に「はい。」とお答えすることはできません。
 したがって、患者には後述の内容を説明したうえで「主治医とご相談するように。」とお答えし、当院に通院されている患者については具体的な対応について返答しています。

 糖尿病患者が新型コロナウイルス感染症や胃腸炎などの急性疾患やストレス、または食欲不振のため食事ができず、血糖値が乱れやすくなった状態を「シックデイ」と呼びます。シックデイ中は、インスリン拮抗ホルモン(コルチゾールなど)が上昇し、インスリンの効きが悪くなり、血糖値が高くなる傾向にあります。しかし逆に、食べる量が少ないにも関わらずいつも通りに経口血糖降下薬を飲んだりインスリン投与をすることで重篤な低血糖がおこることもあり、特別の注意が必要です。

シックデイ対応のポイント

1. 病院受診の見極め

発熱、嘔吐や下痢などの消化器症状が強いとき、持続する高血糖(350 mg/dL以上)や食事摂取が困難な際や脱水症状が強いとき、意識障害などの症状がみられたら医療機関を受診するように指示してください。尿ケトン体強陽性や各症状の程度によっては、入院加療の適応を含め基幹病院への紹介をご検討ください。

2. 食事摂取

糖質の摂取不足は脂肪分解を招き、ケトーシスを引き起こします。また発熱、嘔吐、下痢などの症状と相乗して脱水症へ進展しやすい状態となり、高血糖緊急症(糖尿病性ケトアシドーシスや高浸透圧高血糖状態)の発症リスクが高くなります。
したがって1日に2Lの水分と100~200gの糖質摂取を促し、可能な限り経口的に水分や炭水化物、塩分を摂取するよう指示します。(かゆ、スープ、お茶、アイスクリームなど)

3. 経口血糖降下薬やインスリンの調整

この項目が冒頭の質問の答えになります。経口血糖降下薬については食事量が半分程度であればSU薬・グリニド薬は半量とし、それ以下であれば休薬します。発熱、下痢などの脱水の恐れがある場合にはビグアナイド薬やSGLT2阻害薬、イメグリミンは休薬します。また、食事摂取が困難な時や消化器症状が強い時はα-グルコシダーゼ阻害薬、DPP-4阻害薬およびGLP-1受容体作動薬についても休薬します。インスリンを使用している場合については、食事がとれなくてもインスリン投与を完全には中断せず、基礎インスリンを増減量して継続してください(朝食前値 110~150mg/dLを目標)。超即効型などの食前インスリンについては食事が通常の半分以上たべられる場合は通常量を、半分以下の場合は休薬もしくは高血糖を認めるようであれば半量の投与をご検討ください。