一般社団法人宇部市医師会

知っておきたい病気

2024年10月 肘部管症候群について

宇部中央病院(宇部興産中央病院) 整形外科
橋本 貴弘

 肘部管とは、肘内側部で厚い靭帯様の筋膜と溝状にくぼんだ骨とで形成されたトンネル状の構造のことで、内部には尺骨神経が走行しています。この部位での尺骨神経障害を肘部管症候群と呼び、その主な原因は尺骨神経周囲の靭帯や変形した骨、あるいは腫瘍性病変などによる物理的な圧迫です。本疾患はこのような局所病変による単神経障害であり、その発症様式から絞扼性神経障害に分類されます。絞扼性神経障害は上肢・下肢いずれにもみられますが、上肢では手根管症候群が最多であり二番目が肘部管症候群で、10万人年対44との報告などがあります。手のしびれや指の運動障害などを有する患者様の中にみられ、仕事や生活習慣の中での上肢の使い方などに影響を受けて発症することもあります。
 肘部管症候群には他の絞扼性神経障害とは大きく異なっている点があり、それは神経の絞扼部位が複数存在することです。上腕内側中央部付近のストルーザーのアーケードから肘関節よりやや遠位部にある円回内筋-屈筋筋膜まで、5か所の主な絞扼部位があります(図1)。このことから肘部尺骨神経障害と称されることもあります。また、その中の内側上顆部では、通常その後方を走行している尺骨神経が肘屈曲に伴い内側上顆の前方へ脱臼することがあり、それによって神経障害を生じたり、尺骨神経や上腕三頭筋内側頭の弾発現象を生じたり、その病因・病態はさらに多様化します。逆に尺骨神経脱臼があっても無症状の方も少なくなく、そのことが病態の理解を複雑化させる要因にもなっています。そのため、治療法についてはいまだ議論が続いています。
 診断法は、尺骨神経領域の知覚障害(図2)や運動障害を認めるもので、神経伝導検査で肘関節部の運動神経伝導速度50m/s未満であるなどの基準(AANEM*)により確認したり、超音波検査で尺骨神経断面積10㎜²以上を確認したりすることで診断します。肘部管症候群と診断した上で、可能であれば、神経伝導検査でのインチング法や超音波検査で神経の狭小化や偽神経腫の存在部位を確認することによって前述の絞扼部位の局在診断を行います。治療は保存療法として装具療法や薬物療法、手術療法(単純除圧術、尺骨神経皮下前方移動術、内側上顆切除術など)があり、局在診断の結果などに応じて選択します。術後の予後は、手根管症候群と比較すると回復までに長期間を要し、また、完全には回復しない場合もみられますが、多くは徐々に改善が期待できます。

*AANEM: American Association of Neuromuscular & Electrodiagnostic Medicine

図1 肘部管症候群における神経絞扼部位

(Posner MA. J Am Acad Orthop Surg. 1998より一部改変して引用)

図2 しびれ・知覚障害の範囲: (左)手根管症候群  (右)肘部管症候群