知っておきたい病気
2024年7月 「治る可能性のある高血圧、二次性高血圧について」
ふくたクリニック
小田 隆将
高血圧は体に良くない、このことを否定する方はあまりいないのではないでしょうか。ではなぜ良くないのか、血管の病気(脳卒中、心筋梗塞、大動脈解離など)になりやすい、心臓に負担がかかる(心不全や不整脈を引き起こす)、腎臓の機能が悪くなりやすい、この辺りも広く知られています。歳を取ると血圧が上がるのが普通、これはその通りでしょう。だからほったらかしにしても良い、これは違います。若年の方ほどではないにしろ、80歳を超える方でも高血圧を治療することで、その後の脳血管疾患リスク、心疾患リスク、死亡リスクを下げることができるという報告が複数あります。
さて、先ほど触れた年齢とともに上昇する血圧、特に理由のない場合は本態性高血圧といいます。一方、何らかの原因があっての血圧上昇、これを二次性高血圧といい、高血圧患者さんの10%程度を占めると推定されています。二次性高血圧の特徴として、重症であること、薬があまり効かないこと、若くして発症しうること、比較的急に発症しうることなどがあります。二次性高血圧は血圧を上昇させている原因を除去することで治療でき、場合によっては降圧薬を中止できることもあります。二次性高血圧はまれなものも含めると多数の疾患がありますが、いくらか頻度の高いものをいくつか挙げて説明します。
・睡眠時無呼吸症候群
肥満のある方や顎の小さい方に起こりやすく、睡眠中に呼吸が一時停止して低酸素状態となることを繰り返す病気です。いびきや日中の眠気の症状が有名ですが、治療抵抗性の高血圧を来すことも知られています。ダイエットや持続陽圧呼吸マスクで治療します。
・原発性アルドステロン症
アルドステロンという血圧を上昇させるホルモンの異常分泌により起こります。報告にも拠りますが全高血圧患者の3%を占めるとも言われています。腎臓にくっついたそら豆大の内分泌臓器、副腎にできた良性腫瘍からホルモンが異常分泌されます。血液検査でミネラルの一種、カリウムが低値となることが多いです。内服薬で治療しますが、手術で腫瘍摘出が可能な方もいます。
・腎血管性高血圧
腎臓に血液を供給する腎動脈が狭窄して起こります。腎臓に血流を維持するため、体が血圧を高く維持するようになります。高血圧と腹部聴診の雑音で気づかれることがあり、腹部エコー検査やCT検査で確定診断します。カテーテルを用いて腎動脈を広げる治療が奏功することがあります。
・薬剤誘発性高血圧
薬の副作用による血圧上昇で、日常臨床でしばしば見かけます。たくさんの薬剤が原因となりえますが、代表的なものを二つだけ挙げます。まずは非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)と呼ばれる鎮痛解熱薬です。つまり一部の痛み止め(ロキソプロフェンやジクロフェナクなど)を常用すると血圧上昇やむくみを来す場合があります。もちろんそういった副作用のない痛み止めもありますので処方医師にご確認下さい。もう一つは一部の漢方薬で、甘草が多く含まれたものです。甘草は先に触れたアルドステロンというホルモンと同様の作用があります。こむら返りに使用する芍薬甘草湯が代表ですが、服用する場合は最小限の用量を使用しましょう。
以上、挙げた疾患については、クリニックでもある程度の診断ができますが、確定診断には総合病院への紹介を必要とすることがほとんどです。
最後に、この度令和6年4月より特定検診の第4期が始まりました。この中で血圧の指標についてよく質問を受けるので触れておきます。一番よくある誤解が、上の血圧が160mmHg(以下単位略)、下の血圧が100までは大丈夫になった、というものです。この数字はあくまでも“直ちに”医療機関を受診すべき数字として提示されました。上が140~159、下が90~99の場合も高血圧の状態であり、生活習慣の改善(減塩、軽い運動、肥満ならダイエット、禁煙など)を行っても血圧が下がらない場合は、やはり医療機関の受診が推奨されます。決して高血圧症の診断治療基準が変更になったわけではないことにご留意下さい。
皆様が血圧を上手くコントロールして健康な生活を送れるよう微力ながらお力添えしたく思います。お困りの際はお気軽にご相談ください。