一般社団法人宇部市医師会

知っておきたい病気

2024年2月 鉄欠乏性貧血

宇部興産中央病院 糖尿病血液内科
井本  忍

貧血は赤血球(ヘモグロビン)が減る病気ですが、鉄欠乏で起こってくる貧血が鉄欠乏性貧血で一般的によく見かけます。赤血球にはたくさんのヘムグロビンが含まれており酸素の運搬を行っています。鉄とへム蛋白からヘモグロビンが作られており、鉄不足でヘモグロビンが減ると酸素不足から動悸や息切れを感じます。慢性的な経過をとるため全く症状に気づかないこともあります。

原因

鉄分の摂取量低下や偏食が原因となります、胃炎やヘリコバクターピロリ感染症、胃切除後、胃酸分泌を抑える胃薬の内服などでも鉄吸収不良となり鉄欠乏を来します。また慢性出血や成長、妊娠出産、過多月経などの鉄の喪失や消費増加も鉄不足を招きます。癌や慢性炎症などが隠れている場合があり注意が必要です。食事摂取が少ない場合は鉄以外に亜鉛、葉酸、ビタミンB12も不足している場合があります。

診断

鉄が不足するとヘモグロビン量も減るため赤血球が小型化します。鉄不足は血清鉄(Fe)の低下を認めますが貯蔵鉄(フェリチン)も低下します。鉄不足を補うため鉄を運ぶトランスフェリン蛋白(TIBC)が増えてきます。
ヘモグロビン12 g/dL 未満 (正常は男性13以上、女性12以上)
トランスフェリン 360 μg/dL以上 (正常は300~360μg/dL)
血清フェリチン値12 ng/mL未満 (正常は25~250ng/ml)
を満たせば鉄欠乏性貧血と診断します。
早期の鉄欠乏はトランスフェリン飽和度の低下:血清鉄(Fe)/トランスフェリン(TIBC)の低下で判断します。

治療

通常はクエン酸第一鉄(50~200mg)や硫酸第一鉄(徐放錠100~210mg)などの飲み薬が用いられ、貧血が改善しフェリチンが正常化するまで内服を続けます。胃もたれ、吐き気、便秘、下痢などの消化器症状を10~20%程度認め飲みにくいようです。便が黒くなることがあります。飲みにくければ夕食後や寝る前に服用時間を変更してみます。服用が難しかったり効果が乏しければ静脈注射を行います。1日40~120mgを過剰投与に気をつけながら何日か続けて投与を行います。難治性の方に対しては一度に500mg,1000mgを注射できる製剤が最近使用できるようになりました。

鉄欠乏予防の食事療法

鉄の必要量は1日1mgと言われています。せっかく食べても食品からの鉄吸収率は約10%程度です。肉やレバー、赤身の魚(ヘム鉄含有)からの鉄吸収率は約20%と高いものの、野菜や海草、豆類(非ヘム鉄)からの鉄吸収率は5%と低いです。またビタミンC(果物やジュース)は鉄の吸収をよくしますが、お茶やコーヒーに含まれるタンニンは鉄の吸収を抑制します。鉄分の多い食材を選び、オレンジジュース等を食事中に併用し、お茶やコーヒーは1時間程度あけて飲むのがよいでしょう。また鉄のサプリメントや鉄添加の栄養補助食品の利用も有効です。

貧血は顔色で判断できるものではありません。「貧血なら鉄剤を飲めば治る」と考えずに、貧血の原因をはっきりさせると共に、普段から鉄欠乏にならないように食事にも気をつけることが大事です。