知っておきたい病気
2023年11月 サギングアイ症候群
なかの眼科クリニック
中野 朋子
NHKの長寿番組だった「ためしてガッテン(1995年~)」「ガッテン(2016年~)」の最終回が2022年2月2日に放送されました。タイトルは「しつこい眼のぼやけ 気づいて!本当の原因解明SP」でした。この回で取り上げられた内容「Sagging eye syndrome(サギングアイ症候群)」について述べさせていただきます。
人の眼球には眼を動かす6つの外眼筋(外直筋・内直筋・上直筋・下直筋・上斜筋・下斜筋)が付着しています。サギングアイ症候群は眼球運動を安定させる外眼筋周囲の結合靱帯である眼窩プリーの加齢性変化によって出現する斜視で、成人複視の原因の多くをしめています。
症状:
遠くを見たときに複視を自覚することが多く、車の運転時に白線がだぶって見えるので危険を感じることもあります。眼位のずれが小さい場合には「ものが二つに見える」と感じるのではなく「焦点が合わない」「ぼやける」と感じることも多いようです。
診断:
主に遠方視での内斜視もしくは上下の斜視がみられます。特徴的な顔貌として、上眼瞼のくぼみ、眼瞼下垂、下眼瞼のふくらみなどが見られます。
眼窩MRI撮影を行うと、外直筋と上直筋をつなぐバンドの伸展や断裂、外直筋の下垂などの所見がみられます。
治療:
組み込み式のプリズム眼鏡や、膜タイプのプリズムをレンズに貼り付けた眼鏡をかけることで複視の消失や軽減が得られます。斜視の程度が強い場合には手術の適応になります。
類似した疾患:
強度近視性内斜視;
近視を伴う進行性の内斜視を呈する疾患です。強い近視により眼軸が伸びることで収まりきれなくなった眼球後部が外直筋と上直筋をつなぐバンド部分から脱臼して内下方への斜視を呈します。外直筋が下方へ上直筋が鼻側へ偏位することはサギングアイ症候群と共通していますが、こちらは眼窩プリーが機械的に障害されています。
亜急性後天性共同性内斜視;
いわゆるスマホ斜視といわれて話題になった疾患で、比較的若年者に多い内斜視です。スマホやゲーム機器などのデジタルデバイスを長時間使用することや、眼鏡やコンタクトレンズが低矯正であることなどが一因であると考えられています。しかし、デジタルデバイスの使用を止めても斜視が治ることは少ないので、予防や早期発見が大切です。
外転神経麻痺;
眼球が外転できなくなり内斜視を呈します。遠方視や麻痺側方向への側方視で複視が増強します。原因は糖尿病や高血圧、頭蓋内疾患、外傷など様々です。
人生100年時代といわれるようになりました。加齢によって生じる目の疾患への関心と知識もって可能な限り楽しい日々を過ごしていきましょう。
サギングアイ症候群の顔貌
上眼瞼のくぼみ・眼瞼下垂・下眼瞼のふくらみなどがみられます