知っておきたい病気
2023年5月 無痛MRI乳がん検診について
宇部興産中央病院 放射線科
原田 祐子
「知っておきたい病気」というタイトルとは少しずれてしまいますが、“がん”に関連した話題ということで、今回はがん検診のお話をさせていただきたいと思います。
さて、みなさんは、がん検診をきちんと受けていらっしゃいますか?
山口県は総じてがん検診の受診率が低い状態が続いており、なかでも山口県の乳がん検診受診率は35.4%(2019年)と都道府県別で最も低いものとなっています。がん検診の受診率を50%以上に、というのが国や県の目標なのですが、なぜこれほど受診率が低いのでしょうか。
検診が面倒、時間がない等のほかに、乳がん検診ではマンモグラフィ(乳房エックス線検査)特有の理由があると思います。実際に検査を受けたことのある方はお分かりになると思いますが、マンモグラフィ撮影時には乳房をプラスチックの板で挟んで圧迫するため、程度に個人差はあるものの、痛みを伴います。また担当技師が女性であっても恥ずかしさを感じる人もいるでしょう。
このようなマンモグラフィの欠点を補う検診として、無痛MRI乳がん検診というものがあります。最近様々なメディアで取り上げられており、ご存知の方もいらっしゃるかもしれません。この検査はマンモグラフィによる検診に比べて費用負担は大きくなりますが、検査着を着た状態でうつ伏せになってMRI撮像を行うため、乳房圧迫による痛みや乳房を見られる恥ずかしさを感じない検査になります。また、マンモグラフィとは異なり、X線を使った検査ではありませんので、放射線被曝のない検査となります。
胸部レントゲン写真やマンモグラフィなどのX線を使った写真では、病変が白く写ってきます。黒い背景のなかにある白い病変を探すのであれば、病変の指摘は簡単です。しかし50歳くらいまでの日本人女性は乳腺が豊富に存在する高濃度乳腺であることが多く、このような乳腺ではマンモグラフィでX線が透過しづらくなり、白っぽい背景となります。白い背景のなかにある白い病変を探すことになるため、乳がんの発見が難しい場合があります。しかしMRIでは高濃度乳腺の影響がなく、背景乳腺と病変のコントラストがはっきりとした、良好な画像が得られます。
同じように無痛で行う乳がん検診としてPET検査を用いた検診があります。MRI検査との違いは、放射性医薬品を注射して検査するため放射線被曝を伴うこと、検査前の絶食や検査前後の待機時間が必要なこと、糖尿病の患者さんでは注意が必要なことが挙げられます。一方、MRI検査は閉所恐怖症の方や、MRI非対応の体内金属(ペースメーカー等)を有する方は検査を受けることができません。
無痛MRI乳がん検診は、この検査のキモとなるDWIBS(ドゥイブス検査)を開発した高原太郎医師が代表を務めるドゥイブス・サーチ社が中心となって検査体制を確立しています。2023年3月現在、全国42施設で導入されており、当院(宇部興産中央病院)でもこの夏を目処に導入予定となっています(県内初です!)。まだメジャーな検診方法ではありませんが、これまでマンモグラフィを受けたことのない方、あるいは一度受けて検診から足が遠のいた方にはぜひ検討していただきたいと思います。
またDWIBSを利用して、PET-CT検診と同じような全身がん検診も行うことができます。MRIによる検診が不得手の領域(早期胃癌や早期肺癌など)もありますので、すべてのがんが発見できるわけではありませんが、ほかの検診項目と合わせることで、より高精度のがん検診を行うことができます。
いまや日本人女性の9人に1人が生涯のうちに乳がんにかかると言われています(国立がん研究センター、がん統計)。乳がんの罹患率は30代後半から急増し、子育て世代、働き盛りの世代もかかるがんです。しかし乳がんは早期に発見することができれば、低侵襲の治療で治癒が見込める病気でもあります。ご自身だけでなく、ご家族のためにもセルフチェックに加え、定期的な検診を受けていただきたいと思います。
当院では5月初旬に新しいMRI機器が導入され、夏以降、無痛MRI乳がん検診やDWIBSによる全身がん検診といった新しい検診を始めます。ご興味を持たれた方はぜひ一度ホームページ等を御覧ください。