知っておきたい病気
2022年11月 『血管新生緑内障』
くろいし眼科
石橋 真吾
はじめに
緑内障は、眼球の後ろにある視神経が眼球の中の圧力(眼圧)に耐え切れないために障害され、視野が狭くなっていく病気です。一度、眼球の後ろにある視神経が障害されると、狭くなった視野は元には戻りません。しかも、適切な治療を行わないと視野障害はどんどん進行していきます。よって、緑内障は早期に発見して治療を行い、視野障害の進行を抑えないと遂には失明ということになります。実際、緑内障は病気の中において失明の原因の第1位であり、油断できない病気なのです。
日本人における緑内障の有病率は、40歳以上で約5%(20人に1人の割合)であり、年齢とともに上がり、70歳以上では10人に1人の割合になります。緑内障の病型(タイプ)としては、正常の眼圧なのに緑内障(正常眼圧緑内障)を発症している人が多くを占めます。視野障害の進行は比較的緩徐です。一方、それ以外の様々な病型の緑内障では眼圧が上昇し、眼圧が高くなればなるほど、視野障害の進行は速くなります。
今回は、緑内障の中でも比較的治療に苦慮する血管新生緑内障について述べたいと思います。
血管新生緑内障の病態
血管新生緑内障は、虹彩(茶色の目)と前房隅角(虹彩の根元)といった部位に、新しい血管(新生血管)が生じることで発症する難治性の緑内障です。糖尿病によって網膜が障害される糖尿病網膜症や網膜の静脈が詰まる網膜静脈閉塞症などの網膜を含む眼球の虚血性変化が原因で、網膜の細胞や網膜色素上皮細胞などから、血管を新たに増殖させる因子が分泌され、虹彩や前房隅角といった部位に新生血管が生じると考えられています。
血管新生緑内障の病期は臨床所見や隅角所見から3期に分けられ、1期の血管新生期、2期の開放隅角緑内障期、3期の閉塞隅角期の順に進行します。1期は、虹彩や前房隅角といった部位に新生血管が形成されますが、眼圧が上昇していない時期です。2期は、前房隅角が形成されているままですが、虹彩や前房隅角に形成された新生血管のために、眼圧が上昇している時期です。3期は、病期がさらに進行し、前房隅角がつぶれてしまっている時期で、眼圧上昇は不可逆性となります。
血管新生緑内障の治療
1期の治療は、虚血性変化が起きた網膜にレーザー(網膜光凝固術)を行い、血管新生を増殖する因子の分泌を抑えることで、新生血管を退縮させます。2期の治療は、1期の治療に加えて、眼圧を下げるために抗緑内障治療点眼薬を使用したり、抗血管内皮増殖因子抗体を眼に注射したりします。3期の治療は、2期の治療に加え、眼圧を下げる外科的な緑内障手術が必要となりますが、3期になると他の病型の緑内障と比べて、緑内障手術をしても眼圧が再上昇しやすく、緑内障手術が何回も必要となることがあります。血管新生緑内障の治療は、やはり早い段階で発見し治療を行うことが重要となります。
血管新生緑内障の予防
日本人に多い正常眼圧緑内障と違って、血管新生緑内障は発症予防が可能です。血管新生緑内障の主な原因となっている糖尿病網膜症や網膜静脈閉塞症を発症しないよう、糖尿病や高血圧、高脂血症といった疾患のある方は内科で治療を適切に受けること。また、眼科を定期的に受診し、糖尿病網膜症や網膜静脈閉塞症を発症していないか検査すること。発症している場合は必要に応じて、血管新生緑内障になる前に網膜光凝固術を受けることです。もちろん、常日頃食生活に気をつけて適度な運動など行い、糖尿病や高血圧、高脂血症に初めから発症しないようにすることが最も大切となります。