知っておきたい病気
2022年8月 顔面神経麻痺とは
野中耳鼻科
野中隆三郎
顔面神経麻痺とは、顔の筋肉が動かなくなる病気です。
うがいをすると片方の口角から水が漏れたり、片方の目が閉じにくいとか、顔が曲がったりするのが、顔面神経麻痺です。
この病気は日本で年間4~5万人くらい発症すると言われており、ごくありふれた病気です。
しかし、診断、治療、リハビリが正しく行われないことの多い病気なのです。
軽い麻痺であればほっておけば治ります。麻痺がひどければ最善の治療を行っても後遺症を残します。ほっとけば治るものにCTやMRIを行うのは過剰診療ですし、積極的な治療が必要なのに正しい治療が行われなかったために後遺症を残すということになれば問題があります。
脳梗塞などで、手足が麻痺したりしますが、顔の麻痺がおこることもあります。この場合は中枢性の顔面神経麻痺です。しかし、ほとんどの顔面神経麻痺は脳の異常ではなく、脳から出た後の顔面神経に異常が起こることで生じるのです。
この、脳から出た後で起こった顔の麻痺を末梢性顔面神経麻痺と言います。
中枢性と、末梢性の顔面神経麻痺は額の筋肉に麻痺があるかで区別できます。末梢性の麻痺であれば額も麻痺します。中枢性であれば額に麻痺は起こりません。ただし、軽い麻痺などではその判断がむつかしいこともあります。
つまり、額に麻痺があれば末梢性の麻痺だろうと診断できます。
言い換えると、額に麻痺があれば、まず脳梗塞ではありません。
末梢性顔面神経麻痺は脳から出た顔面神経に異常が起こると生じるのですが、中耳炎や、外傷、聴神経腫瘍、がんの転移など生じますが、最も多いものがベル麻痺と言われる原因不明のものです。しかし、このベル麻痺も多くは単純ヘルペスウイルスの感染(再活性化)が原因と分かっています。
次に多いものがハント症候群と言われるもので、水疱瘡(みずぼうそう)のウイルスが顔面神経に感染(再活性化)したものです。
では、なぜ、ヘルペスウイルスが感染を起こすと、顔面神経が麻痺するのでしょう?
帯状疱疹ヘルペスウイルスが初感染を起こすと水疱瘡(みずぼうそう)となり、全身の皮疹を生じます。感染時には発熱などもありますが、多くは後遺症もなく完治します。
しかし、完治したと思っても神経の中にウイルスが実は残っています。体調が悪くなったり、疲れがたまったりして、免疫が落ちてくると、神経に潜んでいたウイルスが再活性化します。つまり、うつされたのではなく自分が持っているウイルスが原因となります。
今は水疱瘡のワクチンがあり、今では乳幼児の定期接種となり、水痘(みずぼうそう)の感染そのものが減っています。今後帯状疱疹ヘルペスウイルスが原因の顔面神経麻痺は少しずつですが減っていくでしょう。
そして、顔面神経で活性化したヘルペスウイルスが神経に炎症を起こします。顔面神経は骨のトンネルの中を通るため、炎症で神経が腫れあがると、周りは骨に囲まれているので圧迫されることになります。圧迫が強く長く続くと神経が最終的に死んでしまいます。完全に死んでしまうと治ることはありません。
顔面神経麻痺の治療はいかにその圧迫を早くとるかにかかっているのです。
下の図は神経線維を模式図で表したものです。
正常時(骨のトンネルは広い) 炎症時(腫れあがって圧迫しあっている)
治療
具体的にはステロイドという薬と、抗ヘルペスウイルス薬です。そのほかに効果があることがわかっている薬は残念ながらありません。効くかもしれない、悪いことはないだろうという薬があるのみです。
そして、そのほかに手術で顔面神経の周りの骨をとって、圧迫をとるという方法があります。しかし、その手術は簡単ではありません。完全に死んでしまった神経には手術でさえも効果がありません。できるだけ早くステロイドと抗ウイルス薬による治療を行うことが一番大切です。そして、保存的治療で治らないと診断された場合に手術を考慮します。
検査
顔面神経麻痺スコア:どの程度の麻痺があるのか顔の動きを見て点数を付けます。これは何の道具も、機械も必要がない必須の検査です。
筋電図:どの程度神経が生き残っているか測定できます。予後の予測に使えます。
CTや MRI:してもいいですが、耳鼻科受診が先です。
リハビリ
表情筋マッサージ。顔の筋肉を温める。あるいは優しくほぐすようにマッサージする。これはいいのですが、筋肉を強く動かすようにすることや、以前は一般的に行われていた、低周波治療器で筋肉を動かすことは今ではよくないことがわかっています。
以下の動画が参考になります。
» 顔面神経麻痺のリハビリテーション– YouTube
そのほかにも、
» 顔面神経麻痺の一般的な経過– YouTube
» 顔面神経麻痺の標準治療– YouTube
など参考にされるといいでしょう。
さいごに、
顔面神経麻痺と思ったらできるだけ早めに耳鼻科受診をおすすめいたします。