一般社団法人宇部市医師会

知っておきたい病気

2022年7月 膠原病の早期発見のために~手は口ほどにものを言い~


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わただ内科
綿田 敏子

 膠原病は1942 年米国の病理学者クレンペラーが提唱した概念で、結合組織や血管に炎症・変性を起こし、さまざまな臓器に炎症を起こす病気の総称です。臨床的にはこわばりや痛みを伴うリウマチ性、病因論的には免疫異常があり自己抗体が検出される自己免疫性、病変部位は多くの臓器の結合組織という3つの要素を合わせもつものです。関節リウマチ、全身性エリテマトーデス、全身性強皮症、多発性筋炎/皮膚筋炎、混合性結合組織病、シェーグレン症候群、各種の血管炎などが含まれます。未だ原因はよくわかっておらず、各疾患の診断は特徴的な臨床症状と病態、検査にもとづいて行います。
 一方で、膠原病の治療は飛躍的な進歩をとげ、生命・機能予後が改善してきました。 それだけに早期に診断し治療介入することが重要となっています。リウマチ学では「手は口ほどにものを言い」と言いますが、今回は膠原病を疑う主な症状・徴候(表1)のうち手指にみられるものを中心にいくつか挙げてみたいと思います。

表1 膠原病を疑う主な症状・徴候

1)レイノー現象(図 1)

冷たいものを触ったときやや緊張したとき、寒いところで指先が突然白くなります。典型的には、白(虚血)~紫(血流遅延)~赤(再疎通)と3相に変わりますが、白~紫、白~赤の2相の変化のこともあります。動脈の攣縮によるため境界がはっきりしていることが特徴で、30分以内で戻ります。冷感やしびれを伴うこともあります。全身性強皮症の95 %以上で見られ初発症状として重要ですが 、それ以外の膠原病、基礎疾患のない例でも見られることがあります。

図1 レノイー現象
膠原病Q6 皮膚科Q&A(公益社団法人日本皮膚科学会)より

2)手指腫脹

押しても跡の残らない手指全体の腫れのことで熱感や痛みなどは伴いません 。「手が握りにくい」「指輪が入らなくなった」などと訴えられます。 全身性強皮症、混合性結合組織病の早期発見に有用ですが、特異度は高くありません。

3)爪上皮出血点(図2)

指の爪の甘皮のところにみえる茶褐色~黒色の出血点のことです。 爪の甘皮の部分は上皮が折り返していて真皮も非常に薄いため、毛細血管がよく見えるのです。血流障害に加え、内皮障害を反映しています。全身性強皮症、皮膚筋炎、混合性結合組織病、全身性エリテマトーデスでもみられます。血管の障害が進むと 、指先に「陥凹性瘢痕」とよばれるへこみや潰瘍ができることもあります。

図2 爪上皮出血点
膠原病Q7 皮膚科Q&A(公益社団法人日本皮膚科学会)より

4)日光過敏症

日光に当たるところに皮疹ができることがあります。紅斑が多いようですが、丘疹、結節、蕁麻疹、水疱、色素沈着など多彩です。日光過敏症は紫外線だけでなく可視光線によっても起きることがあり、夏以外でも発症する可能性があります。 全身性エリテマトーデスでは鼻梁、頬に蝶形紅斑(米粒大の紅斑が融合したもの)が広がりますが、鼻の両脇のしわ、眉の下の陰には生じません。皮膚筋炎では上眼瞼にヘリオトロープ疹(浮腫を伴い、色調がヘリオトロープの花に似て紫がかっている)やショール徴候・V 徴候とよばれる紅斑が頸部から上胸部、項部から肩の後ろにかけてみられます。

5)ゴットロン徴候

手指関節背部にみられるカサカサして盛り上がっていて落屑を伴う紅褐色の皮疹で、肘頭や膝蓋にもみられることがあります。また手指皮膚の角化や裂孔を母指の尺側、他の4指の橈側に認め、“機械工の手機械工の手”とよばれます。ヘリオトロープ疹と並んでヘ皮膚筋炎に特徴的な皮疹です。

6)関節腫脹

関節リウマチでは朝のこわばり、手指のむくみなどに引き続いて特に指の第二関節や指の付け根の関節、手首が熱を持って腫れ、痛みが起こります。関節を裏打ちしている滑膜に炎症が起こり、厚く腫れる紡錘形の紡錘形の「柔らかい」腫脹になります。一方、変形性関節症で第一関節にみられるへバーデン結節、第二関節にみられるブシャール結節とブシャール結節と呼ばれる腫れは、「ゴツゴツした」骨性腫脹になります。

 以上膠原病あるいはその類縁疾患を疑うきっかけとなりうるいくつかの手の症状を中心に述べました。膠原病の領域では、早期診断、予後予測、寛解導入を目指した治療戦略により生命・機能予後が飛躍的に改善しています。そのため、早期発見の重要性が格段に増しています。今回の話題が少しでもその一助になればと願っています。