一般社団法人宇部市医師会

知っておきたい病気

2015年4月 「失神」

オクダ内科循環器科(宇部市内科医会)
奧田 史雄

失神は日常生活の中で、身の周りの人も含めると、よく出くわす病気(病態)です。読者の中にも、お酒を飲みすぎてトイレで吐いた時や、採血される赤い血をみた時など失神を経験された方があるかもしれません。失神は「一過性の意識消失発作の結果、姿勢が保持できなくなり、かつ自然に、また完全に意識の回復がみられること」と日本循環器学会などのガイドラインでは定義されています。つまり分かりやすく云うと、「一時的に気を失って、立っていても、坐っていてもその場で倒れてしまう。そして自然に(何の処置をしなくても、速やかに)、完全に意識が回復する状態」です。失神の原因となる病気によっては生命に別条はありませんが、失神時に怪我をしたり、交通事故をおこしたりすることがあります。何回も繰り返す人は精神状態に変調をきたす人もいます。

失神の原因には表のように、自律神経の異常や反射によるもの、さらには重篤な心臓血管疾患によるものなど多彩な疾患が含まれています。さらには、失神と区別しなければならない意識障害(てんかん、低血糖、中毒、頸動脈や椎骨動脈の虚血発作など)もあります。そのため、厳密に診断が必要となり、医療機関では血液検査など一般検査の他、長時間心電図記録、心エコー図検査を含む心臓血管検査、さらに頭部画像検査・脳波検査が行われます。反射性(神経調節性)失神では台の上に寝た状態から台を起き上がらせるチルト試験(傾斜試験)も行われます。原因の中で特に重要なものは不整脈や急性心筋梗塞など心血管疾患による失神です。心血管によるものは、自律神経や反射によるものより一般に生命予後が悪く危険性があります。

その他失神は入浴中の死亡に関係することも、最近、指摘されております。失神し浴槽内でおぼれてしまう(溺没)ことにより急死の原因となります。殊に高齢で高血圧症患者、高温で長時間の入浴する場合、浴室とお湯の温度差が大きい場合(浴室内が寒くお湯の温度が高い)が危険です。低温浴、半身浴、短時間入浴がすすめられます。自宅では入浴中に声掛けも必要です。

次に自動車運転と失神は、重要な問題です。重症な失神は治療が有効であるまで運転を制限する必要があります。特に職業運転者はそうです。
以上失神について述べましたが、疑わしい症状や質問があればかかりつけ医にご相談ください。

失神の分類 (参考)

1.起立性低血圧による失神
①原発性自律神経障害、②続発性自律神経障害、③薬剤性、④循環血液量減少

2.反射性(神経調節性)失神

  1. 血管迷走神経性失神
    (1)感情ストレス(恐怖,疼痛,侵襲的器具の使用,採血等)、(2)起立負荷
  2. 状況失神
    (1)咳嗽,くしゃみ、(2)消化器系(嚥下,排便,内臓痛)、(3)排尿(排尿後)、(4)運動後、(5)食後、(6)その他(笑う,金管楽器吹奏,重量挙げ)
  3. 頸動脈洞症候群
  4. 非定型(明瞭な誘因がない/発症が非定型)

3.心原性(心血管性)失神

  1. 不整脈(一次的要因として)
    (1)徐脈性、(2)頻脈性、(3)薬剤誘発性の徐脈,頻脈
  2. 器質的疾患
    (1)心疾患:弁膜症,急性心筋梗塞/虚血など
    (2)その他:肺塞栓症,急性大動脈解離,肺高血圧

 

参考文献
①循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2011年度合同研究班報告)失神の診断・治療ガイドライン
(2012年改訂版) 合同研究班参加学会:日本循環器学会,日本救急医学会,日本小児循環器学会,日本心臓病学会,日本心電学会,日本不整脈学会
②失神を究める. 野原隆司 編集メジカルビュー社, 2009.4.1 1st ed.