知っておきたい病気
2015年5月 ”CIN”って何ですの?
なわたクリニック 婦人科
縄田 修吾
最近米国の有名女優ががん発症のリスクを減らすために予防的に卵巣卵管を摘出したとニュースがありましたが、どんな病気もそれに関する知識を持っておくことは生涯健康に自ら過ごしていく上で非常に大切であると感じております。子供を育む女性特有の臓器である子宮にも様々な病気がおこりますが、今回は子宮頸がんの前がん状態である“CIN”について取り上げたいと思います。
子宮の入り口(子宮頸部)にできる子宮頸がんの多くは、扁平上皮がんという種類のがんです。この種類の頸がんは、原因が特定されている数少ないがんであり、近年その病気の成り立ちが明らかになってきています。すなわち、図に示すように子宮頸部の正常細胞でのヒトパピローマウイルス(HPV)というウイルス感染が深く関わっています。このHPVに感染してもほとんどは免疫力で除去されるのですが、約10%が持続感染し、軽度異形成と呼ばれる状態を引き起こします。この軽度異形成の時期は、ほとんどは自然治癒するため、”感染期“とも捉えることができますが、このうちの3-5%程度が最終的にウイルス由来の特殊ながん関連タンパクの働きなどにより異常細胞を取り除く仕組みから巧妙に免れ、中等度異形成から高度異形成・上皮内がんという、いわゆる”前がん期“の腫瘍の段階を経て、5-10年の年月をかけて目に見える頸がんになるのです。もともと上皮内がんは頸がんの0期と呼ばれる上皮内に留まったごく初期のがんという位置づけでしたが、最近では子宮頸がんの取扱いから外れたこともあり、異形成から上皮内がんまでの一連の病変をまとめて子宮頸部上皮内腫瘍(CIN)と呼びます。また次第にがん化のリスクが増してくる、①軽度異形成、②中等度異形成、③高度異形成・上皮内がんの三段階を、それぞれ簡単に、CIN1、CIN2、CIN3と呼ぶようになってきています。
では、20歳後半から女性ならだれでも罹りうる子宮頸がんにならないためには、どうすればよいのでしょう。CINの段階できちんととらえ管理できれば心配はいらないということになります。残念ながらCINの自覚症状はないため、この段階を見つけるには20歳を過ぎたら子宮がん検診による頸部細胞診検査を受けられることが大切です。最近検診を済まされた方は、細胞診結果が従来のIからVまでの5段階の評価から新たな略号に変更されていることに気づかれたことと思います。実は、採取された細胞の見た目の特徴が、正常細胞相当ならNILM、軽度病変であるCIN1相当ならLSIL、高度病変であるCIN2-3相当ならHSIL、がんが強く疑われればSCCと、頸がんの自然史を想定した独特の略号で記載されているのです。ちなみにLSILが否定できない場合はASC-US、HSILが否定できない場合はASC-Hと報告されます。一般的にがん検診はがんの早期発見が目的ですが、実際には子宮頸がん検診の場合は、CINをみつけてがんになる前にきちんと治療を行うという意味合いが大きいともいえます。ですから、子宮頸がん検診で異常を指摘されてもほとんどは経過観察や子宮を温存できる段階の治療で済むことが多いですし、これにより近い将来頸がんで大変な思いをするリスクから免れるという点で検診を受けて本当によかったという方がほとんどです。そういう意味で子宮頸がん検診を受けない女性が子宮頸がんになりやすい女性というとらえ方もできるでしょう。
ただし、CINを見つける細胞診検査は有用ですが、欠点もあります。例えば、細胞診結果がLSILであっても初期の浸潤がんが見つかったりすることもあるので、コルポ診・組織診と呼ばれる精密検査なしで細胞診だけでの判断や経過観察は危険です。一方、CINのうち20%は細胞診では引っかからない可能性もあり、最近では新しい子宮頸がん検診としてHPV検査も行えるようになってきました。実際、欧米では細胞診とHPV検査の併用検診が一般的で、日本でも一部の自治体で積極的に行われるようになりその有用性が報告されるようになっております。現時点では、自費診療となりますが、HPV検査が陰性であればCINの見逃しの可能性は低いですし、頸がんの発症リスクは低いと考えられるため将来の安心を得られるという意味では意義のある検査と期待されます。過去に細胞診異常を経験したり、CINで治療を受けたことのある方などは積極的に受けられても良い検査であると思います。
では、精密検査でCINが見つかった場合は、どうなるのでしょう。自然消退が期待できるCIN1は経過観察で様子をみていくことが基本ですし、CIN3の段階となればその時点で子宮の入り口を切除する円錐切除術を受ければ、本当に初期のがんがないかを概ね診断できると同時に治療にもつながります。最近ではCINの日帰り手術も可能で日常生活に支障をきたすこともなくなってきています。またCIN2の段階でも、1-2年間自然に治癒しなかった場合や、あるいはHPVの型によってはCIN3への進展リスクを考えて積極的に治療を受けるという選択肢もあります。要するに、CINの管理は日常の婦人科外来診療の中で済むということになります。
人口動態統計2014年では、2013年には子宮頸がんで2,656人が亡くなられており、一生のうちにおよそ76人にひとりが子宮頸がんと診断されるとされております。CINを見つける検査でもある子宮頸がん検診を積極的に受けられれば、将来頸がんで大変な思いをされることがなくなることにつながるのです。がんが見つかると怖いのでがん検診は受けないという方も多いようですが、CINがないか調べてもらおうという気持ちで健康志向の一環として市のがん検診などを積極的に皆で利用すれば、子宮頸がんで子宮摘出などを余儀なくされる方がゼロになることも夢ではないと思います。是非周りの方々に”CINって知ってる?“と話題を提供していただければと思います。