知っておきたい病気
2015年6月 マイボーム腺機能不全について
すが眼科
菅 順子
今回は、日ごろあまり耳にしないと思われる目の病気について、ご説明します。
眼球とまぶたを縦に切って、横から見た図をご参考にしてください。
☆上と下のまぶたのまつ毛の生え際より内側に小さな穴が多数あるのに、お気づきでしょうか。そして、その小さな穴は、横にきれいに並んでおります。この小さな穴をマイボーム腺といい、この腺の開口部から、油性の液体が少量ずつ分泌されていますが、日頃、この分泌物を意識する方は、ほとんどいらっしゃらないと思います。この油性の分泌物は、大変有難い存在で、黒目や白目の表面をおおって、乾きを予防し、細菌の侵入を防ぐ働きをしています。実は、この分泌腺がうまく働かないと、ドライアイや結膜炎、またいわゆる“ものもらい”になり、患者さんにとって、苦痛の種となります。
☆黒目や白目の表面は、水分の涙と油性の分泌物からおおわれており、涙も非常に大事ですが、この油性分泌物も涙と同じくらい大事です。この分泌物が少ないと、空気中の埃の中にいる細菌が結膜炎を起こし、また黒目にも傷がつきやすくなり、涙も油性分泌物もそのバランスを保ちながら、大切な役割を果たしています。ところが、加齢のために、この分泌腺の開口部が固くなり、まぶたの内側に分泌されなくなると、その油性分泌物は、細い管の中で固まってきて、更に出にくくなるという悪循環に陥ります。患者さんは、視力は変わりないけど、まぶたがなんとなく腫れぼったい、すっきりしないという我慢できなくはないけれど、漠然とした症状を訴えて、来院されます。こんな時、瞼の縁をよく診てみると、確かに穴の周りが赤くなり、見た目にも腫れぼったく見えます。程度が軽ければ、マイボーム腺の近くをやけどしない程度に温めると、油性分泌物がじわっと出てきて、症状は改善されますが、眼科を受診してこられる患者さんのほとんどは、症状に気づいて数か月経過していますので、マイボーム腺に細菌感染が起こっており、抗生剤や抗菌剤の目薬を処方しないと、改善しません。このような状態を、マイボーム腺機能不全という状態といいます。
☆この状態を数か月放置してしまうと、治療に時間がかかります。このような状況が続いても、視力が下がることもないので、深刻に考えない方は多いでしょうが、放置しておけば、まぶたの腫れが引かないので、見えにくく感じるようになり、顔の印象も変わってきます。加齢に伴って、油性分泌物が少なくなるのは、やむを得ないとしても、分泌量が充分な若い女性にも、最近のアイメイクの流行で、マイボーム腺の入り口が化粧品で傷められ、その結果、まぶたの腫れやドライアイや慢性結膜炎になってしまいます。このようなドライアイは、単に人口涙液の点眼だけでは、症状は良くなりません。また、季節が変われば、まぶたの内側の事情も変わります。例えば、春先の埃の多い季節では、結膜炎がおおくなりますし、木枯らしの吹く冬には、室内の乾燥で目の中の水分の蒸発が多くなり、目の乾きがひどくなるだけでなく、寒さのために、マイボーム腺の開口部が固くなり、油性分泌物の出が悪くなり、目が開けるのがつらい、ショボショボするという症状が出てきます。最近は、大気汚染に対しても注意が必要で、目をこのような病気から守るのは、なかなか難しいことと思われます。
☆このようなまぶたの事情を知っていただき、特にアイメイクを毎日する方は、朝起床後の洗顔の際、目の縁をじっと観察し、痛みはなくても、赤くなっていないか、腫れていないかとチェックしていただければ、異常に早く気付くことができます。とにかく、慢性化してしまうことを防ぐことが肝心です。予防法として、年齢に限らず、この油性分泌物をスムーズに分泌させるために、できれば、朝夕、目の周りを温めることです。そしてアイメイクを頻繁にする方は、マイボーム腺の開口部の化粧品をていねいに除き、ぬるま湯で洗顔し、できるだけ清潔にすることです。但し、1人1人のまぶたの状態は違いますので、不安な場合は、眼科を受診してください。まぶたを健康に美しく維持するよう、日ごろからきめ細かく注意して頂くと、すっきりした朝を迎えられると思います。