知っておきたい病気
2015年11月 救える命のあることを
有好内科クリニック
有好 浩一
骨髄移植でどれほどの患者さんの命が救われているか、皆様はご存知ですか?
骨髄バンクに登録されたボランティアの善意に支えられ、国内において年間に1000件以上の移植が実施されています。家族からの移植や臍帯血を利用した移植も合わせて、これらは造血幹細胞移植とも呼ばれていますが、年間約3000もの件数となっています。
骨髄移植とは?
骨髄移植とは、赤血球・白血球・血小板などの血球を造る「骨髄」と名付けられた骨の中の組織を、移植し置き換える治療です。最も標準的な治療の流れは、まずは大量の抗癌剤や全身への放射線照射を行うことで、「骨髄」の血球を弱らせ、自己の造血能力を廃絶に追い込みます。そのまま何もせずに放置すれば、「骨髄」の中は血液が全く産生されないスカスカの状態となりますが、提供を受けた「骨髄」を点滴し体に入れると、若くて元気な血液細胞が血流に乗って骨の中の「骨髄」に移動し、そこで血球産生が盛んに行われるようになます。移植によって、「骨髄」の機能である血球産生能力が新生されるのです。
骨髄移植を行うメリットとは何でしょうか。主なものを挙げると、まずは、一連の処置に用いられる大量の抗癌剤や放射線照射によって悪性の細胞を死滅させること。次に、損なわれた造血能力を再生させること。そして、免疫機能を再構築し新たな免疫能力を得ることによって、悪性の細胞を排除出来るようになることなどです。
ただし、副作用等を考慮すると、極めて危険性の高い治療方法です。抗癌剤や放射線照射には重い副作用が有りますし、免疫機能の中・長期にわたる障害なども問題となります。また様々な感染症合併などを避けて通ることは困難であり、これらの問題を解決し体調が安定するまでに数ヶ月から数年に及ぶ治療が必要となることも少なくありません。
対象となる疾患は?
ほとんどの場合は血液悪性疾患と総称される白血病・骨髄異形性症候群・悪性リンパ腫などが治療の対象ですが、再生不良性貧血などに対しても造血の再生を目的に実施されており、希には免疫不全や固形癌などに実施されることもあります。
通常の薬物治療では病状の改善が難しい疾患に対して、骨髄移植の負担や危険性を秤にかけても押し進めることが適切である場合に、検討される治療方法です。臓器機能等も詳細に検討され、移植を行うかどうかは慎重に判断されます。
最大の対象となる白血病
最大の移植対象は白血病です。悪性度が高く、強い治療を必要とすることや、移植による治療効果を高く望めることから、治療対象となることが少なくありません。
他の悪性疾患と同様に高齢化に伴って発症数は増えていますが、比較的に若い年齢層にも多くの患者がおり、未成年での発症も珍しくはありません。風邪の症状や青あざなどの軽い症状で発症することもあり、たまたまの検査の異常で発見されることもあります。白血病は疾患の特徴によって細かく分類されており、それぞれに合わせた治療方法が選択されますが、標準的な治療期間は半年から数年となります。近年、新薬の開発が進み、良好な治療効果を得る例も増えていますが、骨髄移植の対象になるかどうかは最も重要な検討課題です。白血病は根治出来ない限り、極めて短期間のうちに著しく悪化します。根治を目標とする治療計画を必要とする理由がそこにあります。
骨髄バンクの現状
1992年に現在の骨髄バンクの制度が始まり、現在はドナー登録者が40万人を超え、大きく発展いたしました。しかし、年間2000人以上の患者さんがドナー候補となる方を探していますが、実際に移植が行われるのは5〜6割の患者さんにとどまります。病状の進行によって早々に移植の適応が困難となる場合もありますが、候補者が見つからず、時間ばかりが経過することも少なくありません。骨髄移植には白血球の型であるHLAを一致させる必要があり、兄弟姉妹の間では4分の1の確率で一致しますが、他人とは数百から数万分の1の確率でしか一致しません。少しでも良い状態で移植を行うために、多くのドナー候補者を必要としています。
各地に骨髄バンク登録の窓口があり、宇部市においては山口県宇部健康福祉センターに受付窓口が設置されています。