一般社団法人宇部市医師会

知っておきたい病気

2016年5月 ニコチン依存症

なわたクリニック
縄田 智恵子

タバコをやめようと思うのになかなかやめられず、禁煙してもすぐにまた吸い始めてしまったという人は多いのではないでしょうか。強い意志をもってタバコをやめようと思っていてもやめられないのは「ニコチン依存症」という病気のためなのです。

《ニコチン依存症とは》

脳内にはニコチンが結合すると快感を感じる受容体があります。ニコチンがこのニコチン受容体に結合すると快感を生じさせる物質(ドパミン)が放出されます。ニコチンを摂取すると脳内にドパミンが供給され、ドパミンが脳内に増えると人は気持ちがいい、ホッとするなどの感覚がでてきます。タバコを吸っておいしいと感じたり落ち着くのはこのような理由が関係しています。ドパミンが放出されると快感が生じ、そしてさらにまたタバコを吸いたくなります。これを繰り返すうちにタバコをやめられなくなってしまうのがニコチン依存症です。

《タバコが深く関わる病気》

〈癌〉

喫煙によって癌のリスクが高まることはよく知られています。タバコには4,000種類以上の化学物質が含まれ、発がん性物質はその中で60種類もあります。タバコが深く関わる癌は、肺癌が最も多く、その他には口腔癌、咽頭癌、喉頭癌も生じやすくなります。タバコの煙が直接触れることのない胃、肝臓、膵臓、膀胱などもタバコによって癌のリスクが高まるとされています。

〈循環器疾患〉

タバコを吸うとHDL(善玉)コレステロールが減少し、LDL(悪玉)コレステロールが血管にたまりやすくなり、動脈硬化が悪化します。その結果心筋梗塞や脳卒中を起こすリスクが高まります。喫煙者が心筋梗塞になる危険性は、非喫煙者の2~3倍高く、突然死は5~10倍にも達すると言われています。
〈呼吸器疾患〉 タバコを吸う人の主な呼吸器の症状には、慢性的な咳、痰、息切れなどがあります。このような症状があるときはCOPD(Chronic Obstructive Pulmonary Disease:慢性閉塞性肺疾患)の可能性があります。
上記の疾患以外にも糖尿病、メタボリック症候群、バセドウ病、胃潰瘍、骨粗しょう症、うつ病などの発症リスクも高めると言われています。

《女性の喫煙》

女性の喫煙率は年々増加傾向にあり、特に若い世代で高い傾向があります。喫煙は美容の大敵です。喫煙によってホルモン分泌が抑えられるため、肌荒れしやすく、老化も早まります。皮膚にハリがなくなり、しわも増え、白髪、脱毛も伴います。喫煙者の女性は実年齢よりも老けて見られる傾向があります。ホルモンバランスが乱れてしまうことで月経不順、早産、流産、不妊等の原因にもなります。またピルを服用されている方は、タバコを吸う事で血栓症や心筋梗塞等の重大な副作用が生じることがあります。
禁煙するとすぐに多くの方が、「咳や痰が止まった。」「食べ物がおいしく感じられる、味覚・嗅覚が敏感になった。」「目覚めが良くなった。肩こりが軽減した。」等の効果を実感され、毎日の生活がより快適で健康的になります。
1日1箱(1箱440円)で1年間喫煙すると約16万円の出費。5年で80万円、10年で160万円! 禁煙すればこれらのお金を旅行や趣味に使ったり貯金することもできます。

《ニコチン依存症の治療 禁煙補助薬を使う保険診療が可能》

-より効果的に楽に禁煙-
2006年から病医院での禁煙治療に保険が適用されるようになりました。保険適用には要件があり、(1)ニコチン依存症に関わるスクリーニングテストでニコチン依存症と診断 (表1)

表1

(2)ブリンクマン指数(1日の禁煙本数×喫煙年数)が200以上(3)すぐに禁煙したいと思っている(4)治療を受けることを文書で同意しているという4点を満たす必要があります。しかしこの要件では若年者の禁煙治療が進めにくいことから2016年4月より35歳未満の方には(2)の要件がなくなり、より若年者の禁煙が推奨されることとなりました。特に未成年の喫煙は違法行為ではありますが、成人よりもニコチン依存症になりやすく、早急な禁煙治療が望まれることから未成年者にも保険診療の適応となりました。(図1)

図1 健康保険等で禁煙治療を受けるには
健康保険等が適用される「禁煙治療を受けるための要件」4点を満たしている必要があります。

《禁煙を成功させる工夫》

禁煙を成功させるには生活習慣の改善も必要です。毎日の生活の中でタバコと結び付く行動を変えることも有用です。起床後の洗顔、朝食、支度などの順序を変えたり、食事をする場所を変える、早く寝る等も一法です。またタバコ、灰皿などタバコに関するものは捨ててしまう、飲み会はなるべく行かない、飲食店では禁煙席、タバコを売っている場所は避けるなどです。ガムやあめを食べる、冷たい水や熱いお茶を飲む、歯磨き、適度な運動も効果的です。このような小さな工夫で禁煙が成功しやすくなるとされています。(図2)

図2 禁煙を成功させる工夫

《最後に》

禁煙を始めるのに遅すぎることはありません。50歳未満で禁煙すれば、タバコを吸い続けた時と比べてその後15年間の死亡率が半分になるといわれています。禁煙後10年、15年と経過すると様々な病気のリスクが減少します。 禁煙したい方、努力をしたけど達成できなかった方! これを機に禁煙にチャレンジしてみませんか? 禁煙は自力で行うこともできますが、禁煙補助薬を用いれば、より効果的に楽に禁煙を達成できます。お近くの医療機関の禁煙外来でぜひ相談されてみてください。