一般社団法人宇部市医師会

知っておきたい病気

2017年6月 感染性心内膜炎の話

ふくたクリニック
福田 信二

1.血液の循環

血管の中を流れている血液は心臓から送り出されて、心臓に戻ってきます。これを「血液の循環」と言います。1628年イギリス人 ウイリアム・ハーヴェイが発見しました。それまでは、口から食べた食物の栄養分は腸で吸収され、それが肝臓で血液として作られ、血管を通して全身に運ばれ、「精気」となって、全身の生命活動に利用されて、吸収されると考えられていました。血液が循環するには、逆戻りしないための装置「弁」が必要でした。静脈には静脈弁があり、足の静脈血は心臓に戻るようになっており、これが壊れると静脈瘤になります。「静脈血」が右房にもどると、右房と右室の間に「三尖弁」が、右室と肺動脈の間には「肺動脈弁」があり、肺に送られた血液は赤血球から二酸化炭素を出して、酸素を取り込んで「動脈血」となり、左房に戻ります。右房から左房までを「肺循環」と言います。左房から左室の間には「僧房弁」があり、左室と大動脈の間には「大動脈弁」があり、血液は大動脈を通って、体中に拍出されます。末梢では毛細血管で赤血球は酸素を放出して、二酸化炭素を取り込んで、「静脈血」となって、右房に運ばれます。左房から右房までを「体循環」と言います。

2.弁膜症の動向

弁膜症は、今までは溶血性連鎖球菌の感染により引き起こされるリウマチ熱によるリウマチ性弁膜症が主なもので、僧房弁狭窄症、大動脈弁狭窄症という弁尖の癒合による狭窄が特徴的でありました。しかし、最近ではリウマチ熱はほとんどなくなり、加齢に伴う退行変性や長期の動脈硬化、虚血性疾患による弁膜症が多くなり、僧房弁閉鎖不全症、大動脈弁狭窄症、大動脈弁閉鎖不全症が多くなってきています。

3.感染性心内膜炎

心臓の病気で、不明熱を来すことで有名な病気がこの感染性心内膜炎です。
血液の中に菌が入り、心臓の心内膜、主として弁や弁の支持組織や大血管の内膜に付着し、疣贅(数mmから大きいものでは数cmになる)を形成します。頻度は全入院患者の1/173で、男性に多いといわれています。菌塊が血中を流れ、敗血症を引き起こす危険性と、弁膜が破壊されて急性の弁膜症による心不全を起こす危険性があります。そのための症状として、全身症状としては発熱、全身倦怠感、体重減少などがあり、心症状としては心雑音の出現(約85%)、心不全、房室ブロック、塞栓症状として脳梗塞、心筋梗塞、肺塞栓、手足末梢に微小塞栓による点状出血、爪下に爪下線状出血、免疫複合体による症状として糸球体腎炎、関節炎、血管炎(手指先端の有痛結節であるオスラー結節、網膜の出血斑であるロス斑)が出現します。診断は上の臨床症状に加え、血液培養による菌血症の証明、心エコー検査による心内構造異常を確認してなされます。原因菌としては黄色ブドウ球菌、連鎖球菌、腸球菌、コアグラーセ陰性ブドウ球菌、真菌その他があります。治療として内科的治療として抗生物質の投与と、薬物による心不全のコントロールがあり、外科的治療として、菌を除去し、弁形成や弁置換で弁の機能を回復する方法があります。治療上最も重要になるのは手術の適応とそのタイミングであります。例えば薬物治療を先行させ、感染や心不全の薬物コントロールに固執していると、心不全や敗血症が進行して、かえって状況が悪くなる場合があり、一方で、感染コントロールがつかない状況で手術に踏み切ると、手術自体のリスクが高く、人工弁などを用いると二次的な人工弁の感染の危険性も生じる。実際の活動期感染性心内膜炎の外科的治療の手術成績を見ると手術死亡率が10%近くあり、遠隔期の感染の再燃が10-20%もある。このため、感染性心内膜炎予防のための抗菌薬投与の検討が大切になる。

感染性心内膜炎の心エコー図(内科学、朝倉書店、2017)

僧房弁前尖に付着する疣腫