一般社団法人宇部市医師会

知っておきたい病気

2018年7月 ~心不全について~

徳久内科医院
徳久 隆弘

心不全(しんふぜん)とはどんな病気か

ご存知でしょうか?我が国の循環器疾患の死亡数は、癌に次いで第2位となっており、心不全による5年生存率は50%と決して良くありません。 ただ、その事実と心不全の怖さについては、あまり知られていないのが現状です。そのため、心不全について、皆さんによりわかりやすく理解して貰うため、新たに「心不全の定義」を日本循環器学会と日本心不全学会で連携・作成し、2017年10月31日発表されましたので質問&回答形式で今回紹介させていただきます。

<心不全の定義>
『心不全とは、心臓が悪いために、息切れやむくみが起こり、だんだん悪くなり、生命を縮める病気です。』

Q 「心不全は・・・・病気です」とあります。“心不全”は、病名ではないと聞いたことがありますが、これはどういうことですか?

医学の専門用語としては、「病気」ではありませんが、 心臓が悪いことを総合的に表現する言葉として、ここでは「病気」と表現しました。

Q 心臓が悪いため”とありますが、これはどういうことですか?

心臓は、いろいろな原因で正常な機能(血液を全身に送り出すポンプ機能)を発揮できなくなることがありますが、それらを総称して、“心臓が悪いため”に、と表現しています。 悪くなる原因としては、

  1. 血圧が高くなる病気(高血圧)
  2. 心臓の筋肉自体の病気 (心筋症)
  3. 心臓を養っている血管の病気 (心筋梗塞)
  4. 心臓の中には血液の流れを正常に保つ弁があるが、その弁が狭くなったり、 きっちり閉まらなくなったりする病気(弁膜症)
  5. 脈が乱れる病気 (不整脈)

これらの病気のために、心臓の血液を送り出す機能が悪くなっていることを意味します。またそれぞれの病気には、それぞれ適した治療法があります。

Q だんだん悪くなる”とは、どういうことですか?

心不全の臨床経過のイメージを下図に表していますが、心不全を発症しても、適切な治療によって、一旦、症状は改善します。しかし残念ながら、心不全そのものが完全に治ることはなく、症状がぶり返すことがあります。また、過労、塩分や水分の摂りすぎ、風邪、ストレスや、薬の飲み忘れなどにより心不全の症状が悪化、あるいは再発することもあります。そして、安静、治療の適切化によって、心不全の症状は再度改善します。しかし、このような、悪化と改善を繰り返しながら進行して行くことを、“だんだん悪くなる”と表現しました。

Q 生命を縮める病気”とは、具体的にどれくらい生命が縮まるのですか?

どれくらい生命を縮めるかは、個人差があります。1年以内に生命を落とす人から、何十年と普通の生活を送る人まで様々です。 循環器の専門医なら経験上、大まかに予測することはできますが、がんのように、「余命何年です」と説明しにくい状況にあります。それは、がんのように、早期がん、末期がんといった進行の程度が、十分に定められていないからです。学会では、現在、心不全の進行の程度を客観的に説明できるようなデータ解析を進めています。 現段階ではありますが、心不全で入院したことのある人は平均で5年間に約半数の方が亡くなっています。これは肺がんよりは良好ですが、大腸がんとほぼ同等、前立腺がんや乳がんよりは不良です。

Q 心不全は予防できるのですか?

予防することは可能です。心不全の予防には、心臓が悪くならないようにする予防と、心不全を発症した人の再発予防の2つがあります。

心臓が悪くならないようにする予防には、
心臓の働きを悪くさせる要因を除くことが必要です。つまり、高血圧、糖尿病、脂質異常症(コレステロール等が高い病気)、肥満を未然に防ぐことです。そのためには、禁煙、減塩、節酒、適度な運動が重要です。そして、心臓が悪くなりかけていることに早く気付き、医療機関を受診し、上記の生活習慣の改善に加えて、適切な薬物治療をすることにより心不全の発症や悪化を防ぐことができます。

心不全の再発予防としては
上記の事項に加えて、過労、水分の過剰摂取を避けること、また、冬には風邪を契機に心不全の悪化がよく見られますので、風邪予防も重要です。また、高齢者の心不全では、軽度の労作が大きな負担になって、再発することもよくありますので、患者さん自身のヘルスケア、ご家族、あるいは医療・介護関係者、地域でのケアが心不全の予防では特に重要です。

まとめ

地域で支えるという視点から、かかりつけ医を中心に、看護師、ケアマネジャー、理学療法士、介護士、ソーシャルワーカーなどの多職種と行政とが慢性心不全患者さんに寄り添うことが重要であると考えられます。高齢化社会を迎え、人生の締めくくりの時期に、家族や医療・ケア関係者などがどのように寄り添うかが、これまで以上に大きな課題となっています。慢性心不全の患者さんやご家族の方は現在の状況はもちろんの事、今後についても改めてかかりつけの循環器専門医にご相談されてみてはいかがでしょうか?