一般社団法人宇部市医師会

知っておきたい病気

2018年8月 おたふくかぜ難聴〈ワクチン接種が大切〉

きわらクリニック耳鼻咽喉科
緒方 洋一

おたふくかぜ(流行性耳下腺炎)はムンプスウイルスに感染して発症する病気です。耳の下や顎の下が腫れて痛くなるのが特徴で、発熱することもあります。多くは子供たちに罹りますが、免疫を持たない大人に罹ることもある一般的な病気です。

案外知られていないのが合併症です。無菌性髄膜炎、膵炎、睾丸炎、卵巣炎、難聴などがあります。特におたふくかぜで難聴になることがあるなんて聞いたこともない人は多いと思います。この難聴はおたふくかぜに罹った患者の約1000人に1人の割で発症すると言われています。決して少なくない割合です。

おたふくかぜ難聴の特徴は多くは片耳に発症し、高度難聴に至り、治療してもほとんど治らないことです。ムンプスウイルスが内耳に障害を与えることにより聴力が低下し、回復しなくなります。つまり片耳が全く聞こえなくなるという後遺症が残ってしまうのです。またおたふくかぜで難聴になった人の約7割が20歳以下の子供たちです。

これを防ぐ唯一の方法はワクチン接種です。ワクチン接種よりうつされた方が強い免疫がついて良いという「うわさ」がありますが、間違いです。ワクチン接種により、難聴と一生つき合う可能性がある後遺症を予防することが大切です。

おたふくかぜワクチンは現在国が勧める定期接種ではなく、希望者が受ける任意接種です。以前は麻疹、風疹との混合ワクチンで定期接種の時期がありましたが、無菌性髄膜炎の副作用が報告されて、1993年以降混合ワクチンはなくなりました。しかし2003年の厚生労働省の報告では、おたふくかぜに罹って(自然感染)髄膜炎の合併症が起こる患者の頻度は1.24%でしたが、ワクチンの副作用で髄膜炎が起こったのは接種者の0.03~0.06%で、自然感染するより格段に低い発生頻度でした。

日本は先進国の中で唯一ワクチンが任意接種であり、予防接種率は30~40%と低迷しています。世界の多くの国々では麻疹や風疹と同様に2回定期接種を行っています。先進国ではおたふくかぜの流行はほとんどなく、おたふくかぜ難聴になる人は極めて稀です。

小さい頃から片耳が聞こえないハンディを背負う可能性を残すより、ワクチン接種をして合併症をなるべく起こさないように備えておくことを考えてみてはいかがでしょうか。