知っておきたい病気
2018年9月 <女性のデリケートゾーンのトラブル、カビが原因かも?>「カンジダ膣外陰炎」について
江本智子ウィメンズクリニック
江本 智子
デリケートゾーン(尿道から肛門にかけての外陰部全体)の不快症状に悩む女性は少なくありません。クリニックを受診される患者さんの中で、デリケートゾーンに関する一番のトラブルは、「痒み」です。今回は、女性なら誰でも一度は経験するであろう、デリケートゾーンの痒みについて、その原因・治療・予防法などについてお話ししたいと思います。
デリケートゾーンの痒みを引き起こす病原菌として代表的なのものを表1に示します。中でも最も頻度の高い原因は、カンジダ菌(カビの一種)です。75%の女性が生涯で少なくとも1回は罹ると言われています。また、10~30%の女性の膣内にカンジダ菌は常在しており、風邪や睡眠不足などの体調不良時に発症しやすくなります(日和見感染症)。発症誘因がはっきりしているものの中で、最も多いのが抗生物質の内服後の発症です。その他、妊娠、糖尿病、化学療法や放射線療法、通気性の悪い下着の着用などが発症や再発の原因となります。糖尿病患者は尿に糖分を多く含むことから、デリケートゾーンにカンジダ菌などの菌が繁殖しやすくなり、強い痒みを引き起こします。糖尿病の新しい治療薬であるSGLT2阻害薬は大量の糖分を尿中に排出するため、カンジダ膣外陰炎を起こしやすくなります。難治性の場合は、SGLT2阻害薬の一旦中止となる場合があります。
【表1】
診断は病原菌の検出だけでなく、デリケートゾーンの痒みやヒリヒリ感、酒粕様の帯下などの所見(表2)と合わせて行われます。婦人科専門医では、カンジダ菌以外の原因を鑑別することから診察を開始します。初経後は、帯下(おりもの)の増える排卵期や月経中の経血によるムレにより、雑菌が繁殖して痒みを引き起こします。また、ナプキンによるかぶれも少なくありません。デリケートゾーンの不衛生や下着の刺激などが引き金になることもあります。また閉経後は女性ホルモンの低下に伴い、膣内のデーデルライン桿菌(膣内のpHを酸性に保ち、病原菌が増えるのを防いでくれる膣内常在菌)が減り、膣内の感染症が起こりやすくなります。女性ホルモンの低下により慢性の炎症が持続し膣の粘膜が萎縮する萎縮性膣炎も頻度が高く重要です。高齢で尿漏れが気になる女性の場合は、尿漏れパットによるかぶれもあります。難治性の場合は、トリコモナス膣炎や他の細菌感染症を合併している場合もあります。
カンジダ膣外陰炎の治療としては、必要に応じて膣内の洗浄と抗真菌剤の膣錠を使用します。膣外のデリケートゾーンには、抗真菌剤の塗り薬を塗布し、通常は1週間程度で治ります。
予防としては、日ごろからのお手入れが大切です。通気性の良い下着を着用し、おりものシートや月経中のナプキン、尿漏れ用パットはこまめに取り換えて、菌の繁殖を防ぐようにしましょう。入浴時は、弱酸性で低刺激の、デリケートゾーン専用の洗剤を使用されるといいでしょう。洗剤を直接、デリケートゾーンに付けず、しっかり泡立てて、手で丁寧に洗って下さい。
慢性的なデリケートゾーンの炎症は、外陰がんなどの悪性疾患のリスクにつながることもあり注意が必要です。不快症状が持続する、または頻繁に繰り返す場合は、婦人科で相談してみてください。
【表2】