一般社団法人宇部市医師会

知っておきたい病気

2019年2月 腸内細菌と消化管疾患の関わりについて

北村クリニック
北村 陽介

皆さん、人の腸内には100兆個もの細菌が生息していることをご存知でしょうか。実はとんでもない数の腸内細菌と我々は共存しているのです。また腸内フローラという言葉をテレビや雑誌等で聞いたことがありませんか?
小腸から大腸まで様々な細菌が種類ごとにグループを形成し、まとまって腸の壁に住んでいます。これらを顕微鏡でみるとそれらはまるで植物が群生しているお花畑のように見えることから腸内フローラ(お花畑)と呼ばれるようになったそうです。これは腸内の細菌群がつくり出す生態系のことをいい腸内フローラは一人ひとりで全く異なっています。今回はそんな腸内細菌に関して少しお話します。

腸内細菌は多種多様で、その種類はと言いますと1人あたり100~300種類あると言われています。腸に常在している菌の分布は小腸の上部では胃と同様にわずかですが、小腸の下部では次第に増加し大腸では膨大な数となります。
その結果、腸内フローラ内の細菌の数は100兆個にも達します。この数はヒトの体の細胞数の10倍にあたります。腸内フローラのなかにはビフィズス菌や乳酸菌などの体に良い効果を及ぼす菌すなわち善玉菌や、クロストリジウム属菌(ウェルシュ菌)などの有害菌が含まれています。
これらの腸内細菌は健康に有益に働いてくれる善玉菌、健康に有害な悪玉菌、そして状況によって善玉にも悪玉にも変化する日和見菌の3つに分けられます。
一般に健康な人では腸内の善玉菌の方が悪玉菌より多く存在し、善玉菌と悪玉菌と日和見菌の理想の割合は2:1:7と言われております。そしてこれらのバランスを腸内環境と呼んでいます。
この腸内環境は年齢や体調や食生活、ストレス、薬内服等のいろいろな要因によって変化します。悪玉菌が優位に増えると腸内環境が悪化しおなかの不調の原因となります。

そして、これらビフィズス菌などの善玉菌が優性となった腸内フローラは、消化管を病原菌の感染から守る、免疫力を強める、ビタミン類および乳酸、酢酸などの有機酸を作る、などの生理的役割を担ってくれています。
乳酸菌やビフィズス菌、このような“善玉菌”はその働きを含めてプロバイオティクス(腸内細菌のバランスを調整することによって健康に良い影響を与える微生物のこと)と呼ばれ注目されております。厳密にいえば生きたまま小腸下部まで届く有用菌のことをいい、生きた乳酸菌やビフィズス菌およびそれらを含む食品(乳酸菌飲料、ヨーグルト、納豆など)のことを言います。

乳酸菌とは糖類を分解して乳酸を作ります。ビフィズス菌は乳酸菌のほかに酪酸も作ります。これらの酸が腸内の毒素を中和し便通を整えてくれます。
人の腸内に多く存在するのはビフィズス菌の方です。
逆に善玉菌が不足すると腸内の悪玉菌が増え、腸内を腐敗、毒素や発がん物質を生成、腸の運動を妨げガスを発生させます。悪玉菌は動物性たんぱくを多くとる人に多い傾向にあると言われています。
このような善玉菌に期待される生理作用として・悪玉菌の増殖を抑え、腸の働きを整える・下痢の軽減、便性状の改善・便秘の予防・ガス量の減少・ガスの臭いの軽減、ビタミンB群やビタミンKの合成、免疫の活性効果など、体にやさしい効果が期待されます。
またこれとは別にプレバイオティクスという言葉があり、これは腸管内にすでに存在している乳酸菌やビフィズス菌など人に有用な微生物をさらに増やしてくれる食品に含まれる成分(水溶性食物繊維、難消化性の糖質オリゴ糖やデキストリンなど)のことを指します。
水溶性食物繊維やオリゴ糖などは善玉菌のエサになりますので意識してとるようにしましょう(間接的に善玉菌を増やす)。
因みに水溶性食物繊維は便の性状コントロール(りんご、ばなな、桃などに含まれるペクチン、海藻のぬめりに含まれるアルギン酸 主食に含まれる難消化性でんぷんなど)に影響し、非水溶性食物繊維は便の量を増やす(豆類の皮、山菜、キノコ類、海藻類、ごぼう、レンコン、こんにゃく、しらたき、とうもろこし、もやし、にら、干した果物など)働きがあります。
また最近は腸内細菌の研究も飛躍的に進んでおり色々なことが分かってきています。整腸作用だけでなく、胃のヘリコバクターピロリ菌感染や歯周病、アレルギー、肥満などに対しても効果が認められるとも言われております。 
以下にプロバイオティクスの使用が、その予防あるいは治療に有効と考えられている消化管の疾患について順に述べていきます。
まず、プロバイオティクスの病原菌および有害菌に対する抑制効果が発揮できるものとして、ジンジバリス菌による歯周病やヘリコバクターピロリ菌による慢性胃炎および胃十二指腸潰瘍などが挙げられます。またサルモネラ菌やロタウイルスによる消化管感染症、クロストリジウム・ディフィシル菌による偽膜性大腸炎に対しても有効と報告されています。これらの作用メカニズムとしてプロバイオティクスは消化管の粘膜に付着して広く分布することで、これらの病原菌が粘膜に接着するのを物理的に阻害し、かつ、それらの病原菌が必要とする栄養素を奪うことで繁殖を阻止すると考えられます。また乳酸菌やビフィズス菌は乳酸や酢酸を多量に分泌し、これらの有機酸は多くの病原菌や有害菌に対して殺菌作用を持っています。

免疫に及ぼす調節効果により有効性が発揮される疾患として、クローン病や潰瘍性大腸炎などの炎症性腸疾患があります。
他に腸の生理的機能を守る効果により有効性が発揮される疾患として、便秘、過敏性大腸、そして大腸癌があげられます。プロバイオティクスがつくる乳酸や酢酸は腸管粘膜細胞の栄養素となることで、腸の機能を正常に維持し便秘や過敏性大腸の予防に役立つと考えられます。また有害な腐敗物質や発がん物質を産生する、腸内の有害細菌を抑えることで、腸の機能を守り、大腸がんの発生予防にも役立つと予想されます。
以上のように多彩な効果が期待できる善玉菌を優位に保つには腸が喜ぶような食事をとってあげることが大事で乳酸菌、ビフィズス菌、麹等を含む発酵食品を取り入れつつ、腸内の善玉菌にエサを与える水溶性食物繊維やオリゴ糖などを含む食品もバランスよく食べるよう心がけましょう
このように腸管にとって色々な効果が期待されており今後も腸内細菌の研究は更なる発展が期待されています。