一般社団法人宇部市医師会

知っておきたい病気

2019年7月 忍び寄る危険な不整脈 心房細動

宇部興産中央病院
清水 昭彦

不整脈が生じた場合、患者さんの多くは、動悸、胸部不快感、失神、呼吸困難など、心臓の異常を自身で感じることができます。心房細動(図)は、心房が小刻みに震えた状態で、心臓の拍動も不規則になりますが、患者さん自身は脈の不正を感じないいわゆる無症状の場合が半数近くあります。心房細動そのものは、直ちに命にかかわる不整脈ではありませんが、心房細動が起こると正常拍動より血流速度が遅くなってしまうために、長く続くと心臓(主に左房・左心耳)に血栓(血の塊)ができてしまいます。この心臓の中にできた血栓が何かのはずみで心臓からはがれ、血流にのって全身臓器に運ばれて血管を塞いでしまうのが塞栓症です。脳の血管を閉塞されると脳梗塞がおこりますので、この場合の心房細動は危険な不整脈と言えます。但し、心房細動の患者さんであれば誰にでも脳梗塞が起こるというわけではありません。75歳以上の高齢者、脳梗塞の既往のある人、高血圧、糖尿病、心不全の既往がある人は脳梗塞を起こすリスクが高くなります。無治療で有れば心房細動患者さんに年間で3-5%発生します。

先ほど述べたように、心房細動は無症状の場合が半数近くありますので、脳梗塞になって初めて心房細動に気づかれることもあります。脳梗塞を発生すると、意識消失や生命の危機に陥ります。もしそれを免れたとしても片麻痺となり、その後一生家族に迷惑をかけてしまうことになるのです。幸運なことに心房細動に伴う脳梗塞は、抗凝固薬(ワルファリン、直接経口抗凝固薬)を服用することで、脳梗塞の発生リスクを半分以下にすることができます。ただし、この薬は脳梗塞でも心房細動に伴う時のみに有効であるといわれています。他の原因の脳梗塞に対する効果は今のところよくわかっていません。

心房細動は、常に心房細動が出現している持続型・慢性型と言われるタイプと普通は正常な心拍を示しますが発作的に心房細動が出現する発作性と言われるタイプがあります。従って、抗凝固療法を受けるためには、脳梗塞が心房細動に伴う脳梗塞なのか、他の原因の脳梗塞かを判断することが非常に重要になってきます。

この怖い心房細動に伴う脳梗塞を防ぐためには、早く心房細動を発見して、適切な予防治療を開始することです。そのためには、脈を自分でとる習慣をつけて、脈が乱れていたら近くの医院で心電図を取ってもらう。また、健診を定期的に受けて、不整脈がないかどうかをチェックし、場合によっては植込み式の心電計を植込んで発作性心房細動の有無を判定することが重要です。最近は、個人用の携帯心電計をもあり、医療機関でなくても購入可能です。心房細動が見つかれば、検査をして心房細動の原因を探り、心房細動の予防治療を行います。

不幸にも脳梗塞になってしまった場合には、その症状に早く気づいて、閉塞した脳血管の血栓を溶かす注射をしたり、カテーテル技術で血栓を取り出す超急性期の脳梗塞治療が行える病院にできるだけ早く受診します。場合によったら、迷わず救急車を要請してください。

脳梗塞の症状は多彩で、片足を引きずっているといわれる、ものに躓きやすくなった、言葉が出ない、理解できない、ふらふらしてまっすぐ歩けない、片方の手足がしびれる、急にめまいがするようになった、片方のカーテンがかかったように、一時的にものが見えなくなる、物が二重に見えることなどがあります。このような症状は、脳梗塞以外の病気でも起こりますし、場合よっては発症したことに気付かれにくい場合があります。そこで、脳神経の専門医で活動している団体は “Check FAST (早く調べて)”というキャンペーンを行っています。FASTは、Face(顔の麻痺:うまく笑顔が作れなくなる)、Arm(腕の麻痺:片腕に力が入らない、あるいは、両腕を挙げたままの状態を保てない)、Speech(言葉の麻痺:言葉がうまく出なくて、いつもどおりに短い文がしゃべれない)、以上の中の症状が一つでもあったら脳卒中の可能性が高く、Time(発症時刻:脳卒中は治療の遅れが命にかかわる)が重要ということで、これらの頭文字をとったものです。このFASTをチェックしましょう。

以上、心房細動に伴う脳梗塞を予防するには、隠れた、症状のない心房細動を早く見つけて、適切な予防・治療を行うこと。もし、万が一脳梗塞になったらできるだけ早く専門医師を有する病院を受診すること。発症から受診までの時間を短くできほど、後遺症を残すことなく回復するチャンスが増えます。

図 心電図から見る心房細動の発生
正常な心拍から心房細動が発生した。正常な心拍では、心室の興奮波形(鋭く尖った波形)の間隔は規則正しいが、心房細動になると基線が小さな波となり、心室の興奮波形の間隔が急に不規則になっている。