一般社団法人宇部市医師会

知っておきたい病気

2019年8月 好酸球性副鼻腔炎

猪熊耳鼻咽喉科
猪熊 哲彦

はじめに

鼻は、気道の入り口である鼻腔と、鼻腔に隣接する副鼻腔からなっています。鼻腔と副鼻腔は自然口という小さな穴で連絡しています。副鼻腔には、上顎洞(じょうがくどう:頬の奥)、篩骨洞(しこつどう:眼の内側)、前頭洞(ぜんとうどう:眼の上)、蝶形骨洞(ちょうけいこつどう:篩骨洞の奥)があります。(図1)

慢性副鼻腔炎は、昔は蓄膿症とも言っていましたが、これは顔の骨にある副鼻腔に膿がたまる病気のことで、常に鼻閉や鼻汁がみられ、のどの後ろに鼻汁がたまる、流れるといった症状(後鼻漏)があり、長い間罹患すると鼻茸というポリープが生じてくる場合があります。

以前は副鼻腔炎の主な原因は細菌感染といわれ、いわゆる「鼻たれ小僧」といわれる子供たちがたくさんいました。しかし住居や医学など生活環境が良好となり、細菌による感染症が減少してきた反面、花粉症などアレルギー疾患が増加の一途を辿っており、このような状況の中で好酸球性副鼻腔炎も増加してきたものと思われます。

好酸球性副鼻腔炎は副鼻腔の粘膜または鼻ポリープに著明な好酸球浸潤を伴う再発を繰り返し易い慢性副鼻腔炎の総称です.好酸球は血液中のリンパ球の一種で、好酸球は一般的には喘息やアレルギー性鼻炎などの病気を引き起こすことが知られています。この疾患は喘息を持っている方や喘息の予備軍の方に多く認められ、好発年齢は40歳代といわれています。

最近の疫学調査によると、我が国では約100~200万人の慢性鼻副鼻腔炎患者がいると推定されており、その内の約20万人が好酸球性副鼻腔炎で、さらに約2万人が重症例と考えられています。(図2)

日本における好酸球性副鼻腔炎の術前診断基準は2013年に全国大規模疫学調査 (JESREC study) により作成されました。この診断基準でのスコアが11点以上で、術前に好酸球性副鼻腔炎の可能性が高いと診断されます。(図3)

症状

症状としては早期から嗅覚障害を示し、両側の鼻腔内に多発性の鼻ポリープを認め高度の鼻閉が出現します。鼻汁は極めて粘稠で好酸球を含んでおり好酸球性ムチンと呼ばれます。血液中の好酸球数の増加や副鼻腔の中でも篩骨洞病変が上顎洞病変よりも高度の場合が多いと言われています。

治療

治療に関しては、病態に基づいた薬物治療と内視鏡下副鼻腔手術の双方が重要になります。治療方針については、再発リスクに基づいたアルゴリズム(治療の手順)が作成されており、再発性・難治性の度合いによって低リスク群、中リスク群、高リスク群の三群に分けて治療方針を決定します。

薬物療法は、再発低リスク群ではステロイド鼻噴霧薬と抗ロイコトリエン薬の併用、喘息合併例では吸入療法の併用、高リスク群ではステロイドの全身投与が考慮されます。

ステロイド鼻噴霧薬は、経口ステロイド薬の全身投与ほど有効ではないとされますが、副作用もなくある程度の効果が期待でき、好酸球性副鼻腔炎の基本となる治療です。

抗ロイコトリエン薬は、好酸球性副鼻腔炎の病態形成に重要な因子の作用を阻害する薬物で、副鼻腔炎の浮腫性粘膜の改善に優れており、効果が期待できます。

ステロイド薬の全身投与は、病態形成に重要な因子であるTh2サイトカインの発現を比較的容易に抑制するため、薬物療法においては重要な位置を占めています。しかし重篤な副作用があり、使用には注意を要し、重症例や術後の限られた期間のみ使用されています。

手術による治療を行うのは従来と変わりはありません。手術の方法も特に変わったものではありませんが、好酸球性副鼻腔炎では約半数のケースで鼻ポリープが再発すると言われています。現時点では完治までの治療法が十分に確立されておらず、病因もしっかりと解明されていないことも多くあり、再発率が高く、一見症状が治まっても、内服を止めると悪化する場合があります。このため、手術後も長期的な内服が必要となり、厄介な病気と言えます。

最後に

近年、住居や医学など生活環境が良好となり、細菌による感染症が減少してきた反面、花粉症などアレルギー疾患が増加の一途を辿っており、このような状況の中で好酸球性副鼻腔炎も増加してきたものと思われます。

副鼻腔炎は命に係わるような疾患ではありません。そのため、何年も鼻の症状(鼻閉・鼻汁・後鼻漏など)を我慢して、重症化してから、受診する方がほとんどです。呼吸がスムーズに出来なければ、匂いも同時に判らなくなり、QOLは急速に低下します。鼻詰まりが一ヶ月以上続くなら、耳鼻咽喉科で一度診察を受けることをお勧めします。
(文責:猪熊耳鼻咽喉科 猪熊哲彦)