一般社団法人宇部市医師会

知っておきたい病気

2021年5月 乳がん、乳がん検診

ささい放射線科
小野田 秀子

今回は乳がん、乳がん検診についてお話しをさせていただきます。

がんは遺伝が原因と思われている方も多いかと思われますが、遺伝によるがんは5%程度で、食生活や肥満、喫煙、運動不足など、生活習慣が原因なことの方が多いのが現状です。生涯がんに罹患する確率は、男性が65.5%、女性が50.2%と半数以上の方が生涯で1度はがんを経験することになります。がん検診は癌の早期発見に有効な手段で、早期に発見された癌は治癒できる確率が高くなります。

乳がんや子宮頸がんは、他のがんと違い、20~40歳代の若い世代に多い特徴があります。世界保健機関(WHO)の報告によると、2020年にがんと診断された患者数は1930万人で、以前は第1位が肺がんであったのが、乳がんが新規患者数で最も多いがんになりました。

日本のがん検診の受診率は国際的に見ても低く、女性の子宮頸がん、乳がんの検診受診率は、アメリカやイギリスで7~8割なのに比べると日本は4割ほどと極めて低いのが実情です。また日本国内での乳がんの検診受診率は、最も受診率が高いのが宮城県で50.8%なのに対して、不名誉なことに山口県は26.8%と全国で最も受診率が低い県となっており、山口県は乳がんを含め検診をみなさんにしっかり受けていただけるように活動していく必要があります。

自治体で行われる乳がん検診は、40歳以上の方は2年に1度マンモグラフィ検査を受けることができます。一方で超音波による検診は、自治体の検診項目には入っておらず自己負担で受けることになります。マンモグラフィ検査には利点と欠点があり、利点としてはエコー検査と比べると乳がんに伴う微細な石灰化を見つけることに優れています。欠点としては乳腺組織が豊富な乳房(高濃度乳腺)はマンモグラフィで白色にうつるため、腫瘍(白色)があっても見つけにくい場合があることです。

図1の画像は高濃度乳腺のマンモグラフィ画像です。

【図1】

左上方に腫瘍が存在しますが、乳腺組織が豊富で白色に映るため、腫瘍が重なって指摘が困難となっています(石灰化も映っていますが、こちらは良性の石灰化です)。

一方、図2はエコ―画像ですが、乳腺組織が白色に対して腫瘍は黒っぽく描出されるため、乳腺組織が豊富な場合も明瞭に描出することが可能です。

【図2】

またマンモグラフィ検査はX線を使った検査ですが、1回の撮影で乳房が受ける放射線量は0.15ミリシーベルト程度です。1年間に受ける自然放射線量は約2.4ミリシーベルト程度なので、ほとんど健康被害はありません。また、放射線被ばくによる白血病の発生、不妊症、胎児への影響なども心配ありません。実際マンモグラフィのみの検診と超音波検査も併用する検診を比較した研究で、超音波検査を行うことでがんの発見率が上がるという結果が報告されています。そのため、がんを早期に発見するためには、マンモグラフィ検査のみではなく、超音波検査も併せて受けることが勧められます。

また当院に乳腺の検査を受けに来られる方の症状として多いのが、しこりと乳房痛があります。しこりについてはのう胞などの良性の変化の他、乳がんが原因のこともあり、しこりを自覚された方はすぐに受診して調べることをお勧めします。一方で乳房痛は乳腺炎などが原因なこともあるものの、調べても特に異常所見がないことが多く、がんが原因のことはほとんどありません。女性ホルモンのエストロゲンとプロゲステロンの濃度の変化が乳房の痛みの原因になると言われています。ホルモンの血中濃度は、月経の直前、月経中や妊娠中に上昇しますが、乳腺と乳管が拡張して、乳房に体液が保持されます。そのため、乳房が張り、痛みを伴うと言われています。月経周期に関連する痛みは、数カ月から数年にわたって現れたり消えたりすることがあります。経口避妊薬の使用や閉経後のホルモン療法によっても、ホルモンの血中濃度が上昇し、同様の痛みが生じることがあります。心配な方は診察に受診されることで検診の良いきっかけになるかと思うので、1度検査を受けてください。

当院でも今後、山口県の乳がん・子宮がんの検診率が上がるように努めていきたいと思います。どんなきっかけでも良いので、今年はぜひ検診を受けてください!