一般社団法人宇部市医師会

知っておきたい病気

2025年8月 小児の急性中耳炎

なかの耳鼻咽喉科クリニック
中野 博孝

 風邪を引いた子供が、夜になって急に耳を痛がったりしたことはありませんか。そのようにして急性中耳炎は、突然始まります。お風呂やプールで耳の穴に水が入ると、急性中耳炎になると思われがちですが、実は鼓膜に穴の開いていない子供が、耳の穴から病原体がはいって急性中耳炎になることは稀なのです。ほとんどの場合、風邪をひいたときに鼻の奥(上咽頭)で増殖した病原体が、鼻と耳をつなぐ管(耳管)を通って鼓膜の内側(中耳)に達し、そこで炎症をおこします。このように急性中耳炎は病源体で引き起こされますが、その病原体にはウイルスと細菌があります。ウイルスは、風邪を引き起こす様々なウイルスで発症します。一方細菌は、肺炎球菌とインフルエンザ菌とモラキセラカタラーリスという細菌が大半で、これらを急性中耳炎の三大起炎菌を呼びます。
 それでは、診断・治療はどのようにするのでしょうか。実際に病院では、鼓膜の赤さや腫れ具合などの状態を観察します。その際、子供の年齢(2歳未満の子供は重症化・難治化しやすい)や鼓膜所見(赤くないか、腫れていないか、耳だれは出ていないか)や臨床症状(耳を痛がっていないか、熱は出ていないか、泣いたり不機嫌ではないか)を総合的にみて、急性中耳炎の診断し同時に軽症・中等症・重症をきめます。
 治療は、軽症のときには抗生剤は先ほどのウイルスには効かないこと、下痢などの副作用が起こる可能性があること、長期間服用すると効かない細菌が残る可能性があることより使わずに経過を観察します。中等症や重症のときには、まずペニシリン系抗菌薬などを3日~5日間内服して経過を観察します。中耳にたくさんの膿がたまっている場合は、鼓膜に穴をあけて出すことを検討します(鼓膜切開)。過去6か月以内に3回以上、12か月以内に4回以上の急性中耳炎になったことがある場合には、反復性中耳炎と診断されます。2歳未満である子供や、集団保育を受けている子供は、反復性中耳炎になりやすいと考えられています。このような場合には、鼓膜に換気チューブと呼ばれる管を入れて、中耳に膿がたまるのを防いだり、病原体をやっつける物質(抗体)が含まれる、免疫グロブリン製剤というものを点滴したりします。
 それでは、急性中耳炎はどのようにすれば予防できるのでしょうか。一つの方法は、鼻をきちんとかむことです。風邪をひいたときには、鼻の奥にたくさんの病源体が繁殖します。これらを含んだ鼻汁をすすったりせず、こまめに鼻をかんで外に出してしまうことが重要です。自分で鼻をかむことができない乳幼児は、保護者がしっかり鼻を吸引してあげましょう。また、現在小児科などで接種されている肺炎球菌結合型ワクチン(PCV)も、中耳炎の予防に有効であると考えられています。
 急性中耳炎を適切に治療しなかった場合、耳の聞こえが悪くなってしまうこともあります。子供が耳を痛がるときは、速やかに病院を受診してお医者さんに一度見てもらいましょう。