一般社団法人宇部市医師会

知っておきたい病気

2024年9月 性感染症について

はしもと産婦人科医院
橋本 恭治

 近年いろいろな感染症が問題になってきていますが産婦人科医としては性感染症についてあまり話題になることが少ないと思います。性感染症は古来より続くものでありなくなるものではありません。エイズの流行で性感染症に対して関心が集まりましたが日本人の体質でしょうか『喉元を過ぎれば熱さを忘れる』といわれるようにすでに関心の薄いものになってきていると思います。
 性感染症には後天性免疫不全症候群(HIV感染症/エイズ),梅毒,性器クラミジア感染症,性器ヘルペス,尖圭コンジローマ,淋菌感染症などがあります。これらのうちHIV,梅毒,性器クラミジア感染症については母児感染という観点から妊娠中に公費で検査することになっています。治療が可能で治癒するものもありますがHIV感染症については治療によりウィルス量を減らし母子感染を予防します。HIV感染症はまだ治癒する病気ではありません。一生治療を続けなくてはなりません。性感染症について何も考えていなければ下手をすると取り返しのつかないことになります。現在,日本では約4,000人のHIV陽性者が自身のHIV感染を知らずに生活していると考えられています。
 最近問題になっているのは梅毒の流行です。梅毒は初期の段階では無症状であり検査をしないとわかりません。進行していくと大動脈瘤や大動脈炎といった心血管病変,脊髄癆や進行麻痺といった神経系病変を引き起こします。田舎より東京などの都会での感染が多く当院でも吉原のソープで働いていた人が発疹で受診し梅毒の感染が確認されています。梅毒の場合治癒判定は抗体価の低下により判断しますがいわゆる梅毒反応はずっと陽性になるため職場で感染者扱いされることもあります。
 性器ヘルペスは外陰部の非常な痛みを伴います。また,妊娠前後に感染し,母児感染を起こせばせっかく苦労して生んだ子は脳炎,髄膜炎となり脳性麻痺になったりすることも多いのです。
 性器クラミジア感染症は性感染症のなかでも最も多く,20~24歳の女性での10万人に対し1年に1,270.9人と,他の性感染症と比較しても圧倒的に多い。クラミジアは症状の無いことが多く,進行すれば腹腔内に広がって急性腹症となり,卵管炎のため卵管閉塞になり,子宮外妊娠,不妊症の原因となります。妊娠するためには体外受精を必要とする様になります。クラミジア感染症の母児感染では児がクラミジア肺炎となり大変なことになるため妊娠中にクラミジアの検査を必ず行います。一人目の妊娠の時にはクラミジア感染症が発覚してもその時のパートナーからなのか以前の性交渉によるものなのかわからないため治療すればよいだけになりますが二人目以降の妊娠の際に発覚すればそれは本人の浮気のためなのかまたはパートナーの浮気なのかということになります。性交渉でなければまず感染しないためそういうことになります。そうなると結婚生活の危機となります。
 淋菌感染症は性器クラミジア感染症に比べれば少ないが卵管炎から卵管閉塞を来します。そうなると体外受精でしか妊娠は困難となります。
 尖圭コンジローマはHPV(ヒト乳頭腫ウィルス)によるものでHPVの種類によっては子宮頚癌の原因となります。HPVに対しては現在ワクチンがありますが副反応の問題もあり子宮頚癌の予防,減少に繋がりますが,個人個人について考えると副反応が重症でなければよかったね,重症となれば人生が一変してしまいます。もちろん子宮頚癌になってしまえばそんなことはいっておれないとおもいます。HPVの感染を予防すればよい。子宮頚癌の検診を受けることと性感染症の予防が最も効果的と考えます。子宮頚癌の原因がHPVだけではないのですから。
 以上,性感染症の予防がいかに大事か,性感染症を甘く見ないこと,感染によって結果的に悲惨な人生となってしまうことを考えていただきたいと思います。