一般社団法人宇部市医師会

知っておきたい病気

2024年8月 良性発作性頭位めまい症

耳鼻咽喉科クリニカ厚南
井上 英輝

朝目が覚めて起き上がった直後や急に振り向いたとき、目薬をさそうとして上を向いたとき、髪を洗うために下を向いたときなど、頭を動かした際に特定の位置で起きるめまいでは、良性発作性頭位めまい症が強く疑われます。良性発作性頭位めまい症とは、内耳の障害により発症する疾患で、末梢性(内耳性)めまいの中で最も頻度の高いものです。めまいは特定の頭位や頭位変換の後にわずかの間をおいて発現し徐々に増強、その後減弱、消失していきます。めまいの持続時間は数秒から数十秒で1分を超えることは稀です。末梢性(内耳性)めまいの中には難聴,耳鳴り、耳閉感などの聴覚症状を伴うことがよくありますが、良性発作性頭位めまい症ではそのような症状はありません。また、嘔気嘔吐をきたすことがあるものの、意識障害、複視、視力障害、構音障害、嚥下障害、誤嚥などのめまい以外の神経症状を示すこともありません。予後は良好であり、生命への危険性や重篤な副障害を残すことはないが、めまいの自覚は強く、症状が週単位で持続することが多いことなどから日常生活への影響が極めて大きい疾患です。

病因・病態

内耳の機能で平衡感覚を担当しているのは内耳前庭器です。そこの卵形嚢という部位に、耳石という小さな砂粒が存在しています。何らかの原因(原因不明のことが多いが、加齢、頭部打撲、突発性難聴やメニエール病などの内耳障害、カルシウム代謝障害、女性ホルモンバランス障害)で耳石が剥がれ落ちて三半規管に迷い込むことによって半規管の興奮あるいは抑制が起こり良性発作性頭位めまい症を発症させるのです。

診断・検査

良性発作性頭位めまい症の診断はその特徴的なめまいの性状と頭位・頭位変換眼振検査を行うことによってなされます。眼振とは半規管が刺激を受けることによって眼球を動かす筋肉が収縮し、眼球がゆっくりと一方に偏倚し、その後反対方向に急速に動いた後、正中眼位に復帰する眼球運動のことを言います。半規管が刺激を受けている間はこのプロセスが繰り返されます。良性発作性頭位めまい症ではめまいの自覚とともに眼振が発現し、自覚症状の増強・減弱に伴って眼振も同じように徐々に強くなってその後減衰していきます。眼振の方向などの性状(水平・垂直・回旋性など)は刺激を受けた半規管によって異なります。つまり耳石が剥がれ落ちた先が後半規管か外側半規管かで眼振の型が変わってきます。その違いを確認することでどの半規管に耳石が迷入したかを知ることができます。

治療

発症直後の激しいめまいの自覚があるときは7%重曹水の静注、制吐薬・抗不安薬、その後は抗めまい薬、抗ヒスタミン薬の投与がなされます。
良性発作性頭位めまい症は、耳石が本来あるべき卵形嚢から半規管に入り込んだことにより起きるため、耳石置換法という医師の施術で行われる連続する頭部の運動により耳石を元の卵形嚢に移動させる治療法が有効です。そのためにはめまいの性状と眼振の型から、耳石の入り込んでいる半規管を特定することが必要です。どの半規管に結石があるかで運動方法が変わってきますが、特に後半規管型良性発作性頭位めまい症では、耳石置換法の有効度が高いことが知られています。

自然経過と再発

良性発作性頭位めまい症は自然治癒する疾患で治療が行われなかったとしても外側半規管型では平均9日、後半規管型では平均39日でめまいが消失すると言われています。
良性発作性頭位めまい症は治癒後に50%が再発し、特に1年以内の再発がよく見られます。再発率を低下させるためには睡眠時の頭位を健側下頭位にすることが有効であると示されています。そのためには主治医から患側が右か左かを聞いておくことが必要です。