一般社団法人宇部市医師会

知っておきたい病気

2024年6月 統合失調症

片倉病院
堀田 秀文

 統合失調症にかかると、こころや思考がまとまりを欠いた状態になり、行動や気分、人間関係などに様々な影響が出やすくなります。100人に1人程度がかかるといわれており、発病は思春期~30歳前後が多く、40歳前後の発病や中高年以降に病気が発覚することもあります。

【症 状】

 幻覚のなかで他の人には聞こえない声が聞こえる「幻聴」が現れやすく、周囲の人が自分を陥れようとしていると思い込む「被害妄想」、見張られていると思い込む「注察妄想」などが多いです。また「思考障害」のため、考えが混乱してまとまりがなくなり、脈絡のないことを言ったり考えたりします。さらに意欲がなくなって無気力になり、感情が表に出にくく無表情だったり、喜怒哀楽が乏しくなり、人とのかかわりを避けて閉じこもったりします。

【経 過】

 幻覚、妄想などの症状がかなりおさまっていても、症状が再発する場合があります。再発サインは人によって異なりますが、不眠、不安、いらいら・そわそわするなど落ち着きなさ、神経過敏などです。しばらくの間、入院治療が必要となる場合もありますので、専門医療機関への早めの受診をお勧めします。

【薬の治療について】

 抗精神病薬を中心に症状に応じて睡眠薬、抗不安薬などが処方されます。病気の重症度によっても異なると思いますが、私の診療経験では、抗精神病薬により幻聴、妄想がほとんどなくなる場合も時にありますが、症状が完全にはなくならず持続する場合も多いようです。薬の服用にも関わらず、幻聴、妄想がなくならない場合、幻聴、妄想に大きく影響された思考や行動によって生活や仕事に支障を生じたり、不安、いらいら感が強まって落ち着きがなくなりいろいろと困る場合があります。しかし、幻聴、妄想が続いていても、あまり気にならずに穏やかな気分で過ごせるようになり、自分がしたいことや仕事などに集中して取り組めるようになると多少状況が好転してきます。そのためには、幻聴、妄想に対して、ある程度の落ち着きが得られるようになるまでは薬剤調整などの治療が主体になると思われますので、主治医によく相談してください。強い眠気、ふらつき、そわそわしてじっとしていられないなど、薬の副作用と思われる症状が出たときもよく相談されることをお勧めします。また、病気の特性・経過や、薬の効果・副作用などについて知識を得ることで、病状悪化に対応しやすくなる場合もあります。

【リハビリ治療について】

 少し落ち着いてきたら、まずは調子が悪い時の癒しの方法、気分転換の方法、自分なりのリラックス方法をみつけましょう。人によって様々ですが、休む、寝る、頓服の薬(不安時など)を飲む、テレビを見る、ネットを見る、友達と話す、散歩する、軽い運動など体を動かす、風呂に入る、シャワーを浴びる、音楽を聴く、カラオケを歌う、部屋を掃除する、ふき掃除、皿洗い、何か自分の大事な品物をピカピカに磨く、それぞれの趣味など自分が楽しいことをするなどです。「趣味」というと、「私は何も趣味などありません」と言われる人がよくおられますが、大仰な話ではなく、自分が少しでも楽になったり、楽しいことをするとよいと思います。
 また、幻覚、妄想などがおさまっていても、緊張しすぎて周囲の環境になじみにくい、自分の考えや気持ちをうまく伝えられない、集中することが苦手で疲労しやすい、臨機応変な判断ができない、2つ以上の課題を並行してうまく対応できないなどの問題で悪循環となり、生活のしづらさを感じる場合があります。しかし、話し合える友達、出かける場所、その人の能力に応じて働ける場所などがあれば、いきいきとした生活ができることも多いです。そのための支援として、訪問看護、ヘルパーによる援助、外来作業療法、病院のデイケアなどがあり、病状の安定を保ちながら、作業能力や対人交流技能の向上を目指します。さらに自宅での自立生活または独立した生活を目指して、生活訓練施設(援護寮)やグループホームなどの入所施設の利用も可能です。精神保健福祉制度やその他の制度として、必要に応じて、自立支援医療、精神障がい者保健福祉手帳、社会福祉協議会の事業、成年後見制度などがあります。申請の要件がありますので主治医、医療機関の相談室、市役所などに相談してください。
 仕事については、福祉的就労として就労移行支援、就労継続支援A型・B型などがあり、職業訓練、就労定着支援としてジョブコーチなどの制度があります。さらに一般企業の障がい者雇用、一般就労があり、病状によると思いますが、福祉的就労から一般就労へ徐々にステップアップしていく人もいます。

【家族の方へ】

 患者さんの病状が不安定であると、家族の方が落ち着いて過ごすのはなかなか難しいと思います。状況によっては患者さんから少し距離をとることが必要な場合もあるかもしれません。病状経過が長くなるとなかなか困難な場合も多いと思われますが、家族の影響は大きいので、家族の方が落ち着いていると患者さんも安定しやすい傾向があると思います。そのためにも家族の方にはご自身の生活・時間を大切にしていただいて、趣味や旅行など、できるだけリラックスしたり、気分転換をしながら過ごされると、むしろ患者さんにもよい影響を及ぼす場合が多いと思われます。