知っておきたい病気
2024年3月 赤ちゃんの「向きぐせ」と「位置的頭蓋変形症」
金子小児科
金子 淳子
日本では乳幼児突然死症候群のリスクを考慮して、赤ちゃんを仰向けに寝かせることが推奨されています。一方、アメリカでは、赤ちゃんの発達を促すために、安全に配慮しながら「タミータイム (うつ伏せ練習)」が行われています。
多くの赤ちゃんには、産科を退院する頃に左右どちらかの「向きぐせ」がみられます。吐き戻しの予防という理由で、右向きの姿勢を勧められていることもあるようです（これには根拠がありません）。赤ちゃんの頭蓋骨は柔らかく変形しやすいため、向きぐせは赤ちゃんの頭のかたちのゆがみ（頭蓋変形）につながります。骨の病気などによる先天的な頭蓋変形でない、向きぐせなどの外力による頭蓋変形を「位置的頭蓋変形症」と呼びます。向きぐせは頭蓋変形だけでなく、股関節脱臼の原因となることもあります。
位置的頭蓋変形症の最も大きな問題は、“見た目” です。思春期を迎える頃には、深刻な悩みの種になることも予想されます。また、変形が重度である場合、帽子をかぶると斜めになってしまう、ポニーテールがうまく結べない、耳の位置がずれるため、メガネ、ヘッドフォン、マスクなどを使用する際に影響が出るなどの弊害が起こります。顎のずれが生じると、歯並びや噛み合わせに影響が出るという報告もあります。
最近、位置的頭蓋変形症に対する治療として、「ヘルメット治療」が積極的に行われるようになりました。これは、赤ちゃんの頭蓋の形状にあわせたオーダーメイドのヘルメットを作製し、頭の成長に合わせて適切な状態で装着することで、頭蓋変形を改善するというものです。ヘルメット治療は希望すれば誰でも受けられるものではなく、専門の医師が「ヘルメット治療を行ったほうがよい」と判断しなければ受けることはできません。また、この治療法には保険適応はなく自費診療となるため、かなり高額な費用がかかります。
赤ちゃんの位置的頭蓋変形症の多くは、生後早期からの向きぐせが原因です。まずは向きぐせが、その後の子どもの成長と発達に大きく影響する大切な問題であることを多くの方々に知ってもらう必要があります。そのうえで、なるべく早い時期の対処が必要です。頭だけでなく、体全体を向きぐせの反対方向に向ける体位変換、抱っこや授乳の向きを変えることをおすすめします。ドーナツ枕はあまり効果的ではありません。
山口県では、小児科医による赤ちゃんの生後1か月健診が行われています。さらに宇部市においては、生後2週間健診も行われています。赤ちゃんの向きぐせや頭のかたちのゆがみが気になるときには、ぜひ小児科のかかりつけ医に相談してみてください。