知っておきたい病気
2023年9月 LGBTsの正しい理解と医療的介入について
針間産婦人科
金子 法子
先日広島G7サミット開催直前に「LGBT理解増進法」(表1)も成立し、東京オリンピックの開催来、ここ数年でLGBTに対する世間の関心が高まってきている。宇部市は2021年9月にパートナーシップ制度が施行され、これまで6組のカップルがこの制度を利用している。しかし一般的にはまだまだLGBTという言葉だけが独り歩きし、その違いを明確に説明できる市民は少ないように思われる。当院では「にじいろ外来」を開設し、主に性別違和を抱える当事者の相談及び医療的介入などを行ってきている。一般的には「性同一性障害」といわれている、生まれ持っている身体の性と、今回の法案では「ジェンダーアイデンティティー」と表記された心の性が一致しない方が対象となることが多い。
表1: LGBT理解増進法
我々のセクシュアリティは様々な構成要素があり(表2)、それらの組み合わせには無限のグラデーションがある。LGBTのLGBは性指向(Lは女性同士、Gは男性同士、Bは女性と男性もどちらも好きになり得る感情を持つ者)の分類であり、Tはトランスジェンダー(持って生まれた身体の性と、自分の心が男である、女であるという性自認がトランス=変換している者)のそれぞれの頭文字をとってLGBTと呼んでいる。いわゆる性的マイノリティには他にもQ(クエスチョニングのQ,自分がどこに所属するかわからない、揺れ動いている)やA(アセクシャル、他人に対して性的魅力を感じない)など様々なものがあり(表3)、それらを総じてLGBTs(sは複数を表す)と呼ぶ。LGBTsは全人口の8.9%(左利きの割合と同じ)存在すると言われ、マイノリティと呼ぶのも時代錯誤ではないかと考える。私自身左利きで、昭和の時代、左利きは恥ずかしいことと言われ、お箸と鉛筆の持ち方だけは矯正されたが、今の時代、左利きの人が肩身の狭い思いをすることはない。同じようにLGBTsの方々もマイノリティと呼ばれること自体、変換期に来ており、最近では自分のSOGIE(セクシャルオリエンテーション、ジェンダーアイデンティティ、ジェンダーエクスプレッションの略)は~であるという言い方に変わりつつある。身体の性、心の性、好きになる性に加えて表現する性の組み合わせによって自分のセクシュアリティを具現化できる。マイノリティと表現すること自体、マジョリティ側と思っている人間からの分断的、批判的思考が潜在しているのではないだろうか。
表2
表3
我々医療従事者ができることは、主にトランスジェンダーと言われる性別違和を抱える当事者の方々に寄り添い、どこに生き方の不自由さを感じるか訴えを拝聴し、場合によっては月経を止めたりホルモン療法をしたりすることであるが、思春期の頃からそのことによって、生き辛さを感じているのであれば、学校や精神科医、カウンセラー、弁護士などと連携して制服や部活、トイレ、修学旅行への対応などできることを模索することも大切である。また戸籍まで将来変えたい場合は、いくつかの規定があり、その場合、日本では精神科医の診断や性別適合手術(よく言われる性転換手術というのは間違いであり、自分の性自認に身体を合わすということより、この表記が正しい)などの必要があり、性自認だけをもって異性のお風呂に入ることなどは杞憂である。
宇部市はSDGs宣言都市でもあり、県内最初のパートナーシップ制度を開始した自治体でもある。誰もが生きやすく自己肯定感を高く持ち、共生できる優しい街となってきている。知らないことで、そんなつもりで言ってなくても他者を傷つけることは誰にでもあることではあるが、まずは身近に当事者と言われるかたがいることを頭に入れて、「~らしさ」に固執せず、ありのままの貴方を認め、対立ではなく寄り添いの社会になることを切に願っている。