一般社団法人宇部市医師会

知っておきたい病気

2020年6月 双極性Ⅱ型障害

西宇部病院
田中 隆穂

双極性障害とは逸脱した気分の変動を主症状とした精神障害で、「躁うつ病」と言い換えると皆さんにも理解がしやすいと思います。つまり気分の変動とは「鬱」や「躁」という事ですが、それが数ヶ月から年単位の長い周期でみられ、間には寛解期と呼ばれる「躁」でも「鬱」でも無い期間が大抵はみられます。

この双極性障害には2つのタイプが有ります。1つははっきりした「躁」と「鬱」がある双極Ⅰ型障害(従来の躁うつ病)で、もう1つは「躁」が軽度で目立たず、「鬱」が主症状に見える双極Ⅱ型障害です。この双極Ⅱ型で見られる軽い躁状態は、本人にとっては気分も調子も良く、特に周囲と目立ったトラブルになる事も無く、自分の平常な状態と考え、家族や友人、知人等周囲からも「性格的なもの」とか「気分屋」とか取られ、病気の症状とまでは思われず、周りからは殆どの場合うつ病と見られています。

医療機関にかかる場合も「うつ」の症状を訴えて受診される事が殆どです。実際診療に当たる専門の精神科医でも本人やその周辺から聴取した病歴の中に過去の軽躁状態の存在を確認出来ず、うつ病として治療を始める場合も少なくありません。双極性障害の鬱症状とうつ病の鬱症状は非常によく似ており、その為その症状から「うつ病」の「鬱」と「双極性障害」の「鬱」を鑑別する事は難しいのですが、実は双極性障害とうつ病は近いようで全く違う病気であり、治療も全く異なっています。うつ病の薬物療法は抗うつ薬を使いますが、双極性障害には気分安定薬や抗精神病薬等が使用されます。双極性障害のうつ状態に抗うつ薬は用いませんが、これは処方してもあまり効果がみられなかったり、逆にリスクとして躁転という高度の躁状態の出現や、躁うつ混合状態の出現(双極性障害で最も重症と考えられている症状で自殺の危険が高い)、躁や鬱の短期間での切り替わりと繰り返し(年4回以上のものはラピッドサイクラーと言われる)等のむしろ脳の病態としては鬱状態よりも悪化した状態となり(実は「躁」は脳科学的に「鬱」よりも重症です)、安定した治療効果を得る事が出来ない事が多いからです。

うつ病は誰でもかかる可能性がある疾患ですが、治療がうまく行けばかなり寛解率が高い病気です。しかし、双極性障害は体質のようなものが有り、治療により軽快しても中断するとかなりの確率で再発するため、長期の服薬の継続が必要になります。また躁状態に比べてうつ状態への薬物の治療効果はそう高くなく、Ⅰ型障害に比べ鬱の期間が遙かに長いⅡ型障害では日常生活や社会生活において色々な困難に直面する事も多くなります。一見Ⅰ型障害よりも軽症とも見えるⅡ型障害ですが社会での生き難さはより深刻かも知れません。精神障害の診断基準の中に「症状は臨床的に著しい苦痛または社会的・職業的・他の重要な領域における機能の障害を引き起こしている。」というものが有り、精神障害を持つ方は多かれ少なかれその症状のために人間関係や日常生活、更には社会的、職業的等に於いて様々なハンディを負っておられるのです。

治療に当たっては薬物療法とカウンセリングに加え環境の調整等が非常に重要で、周囲の協力や社会資源の活用が重要になります。特に再発や悪化の要因となるものは過労、ストレス、生活リズムの乱れ、仕事等に於けるペース配分の失敗等であり、逆に言うとそこを上手くしのげれば、落ち着いた社会生活を送れる可能性は跳ね上がります。もう一つよくある悪化の原因は服薬の中断です。病状悪化による中断もありますが、よくあるケースで知人や家族が「薬に頼っちゃいけない」とか、「薬は飲まない方が良い」とか言われて止めるという事も結構多いようです。双極性障害に限らず精神障害には長期の(場合によっては生涯)服薬の継続が必要な場合が多々あります。

今回は間違った捉え方をされやすい病気として双極性Ⅱ型障害を取り上げましたが、双極性障害に限らず精神障害を持つ人が適切な治療を受け、且つ社会で安心して暮らせるためにも、皆さんが精神障害全般に対し正しい知識と理解持っていただける事を切にお願いいたします。